プロフィール
奈良 典子(なら のりこ)1968年生まれ 神奈川県出身
実践女子大学 准教授
管理栄養士(1993年~2008年全日本柔道女子チーム担当)
※1996年から2008年までの4回のオリピックを含めて海外遠征に同行し、栄養指導のほか食事作りも担当
こんにちは1993年から2008年まで全日本女子柔道の栄養担当をさせていただきました管理栄養士の奈良典子と申します。正直、柔道経験ゼロの私に、バトンがつながれて良いのか?とマダム桂子に質問すると、『私たちの胃袋を支えた方なので良いんです(笑)』と後押しをされまた。せっかく機会を与えていただきましたので、全日本柔道連盟の医科学(医師、トレーナー、栄養士など)スタッフの管理栄養士の活動例について、少し昔を振り返りながらお話しをさせていただこうと思います。
1993年の春、私は全日本女子柔道の初代栄養担当として講道館に足を踏入れることとなりました。当時、柔道を含めて全日本レベルでも医科学サポート体制が整っている競技種目は限られており、管理栄養士が携わっているのは極わずかでした。当然、栄養に関わるデータもほとんどない環境でした。
そこで、最初の取り組みは情報収集です。私にできることは何か?すべきことは何か? とにかく柔道経験ゼロの私は、柔道はどんな動きをするのか? 消費エネルギーは何キロカロリーくらいなのか?現状の食事はどんなものが提供されているのか? 栄養バランスはどうか?選手は必要な栄養素が十分にとれているのか? 選手の摂食状況は?残さずに食べているのか? など、合宿期間中に練習や食環境など、選手に関わる行動を観察し質問をしながら情報収集に努めました。
そんなある日、テレビドラマのような減量のワンシーンを目の当たりにしました。食べない、飲まない驚愕な減量をしていたのです。その時、「こんな無謀な減量はやめさせなきゃ!何とかせねば!」という思いで、気がつけば15年半、担当していました。
例えば、食べないで減量する選手の共通点には、減量に関する知識が十分でないことが考えられました。今でこそ、減量方法に関する情報はネット検索すると出てきますし、女性アスリートの三主徴ということで、無月経とケガについての情報も浸透しています。しかし、20年以上前は皆無でした。“月経は女性にとって出産準備に必要なこと”という情報は理解していましたが、現役の女子選手にとって月経は面倒であり、多感な思春期女子には遠い未来の話であり赤面するような現実味のないテーマのようでした。
そのため、女性のスポーツ選手にとって身近な問題であるケガと月経について話しました。「定期的に月経があることは、ケガをしにくい身体、丈夫な骨づくりために、必要なことだし、とても重要な役割を果たしているんだよ」と伝え続けました。すると、毎月、面倒だけれど、強い身体を作る上には、月経は当然であり重要であることを理解してくれるようになっていきました。
担当当初は全日本のトップ層を中心に活動していましたが、育成世代の監督やスタッフにもご理解とご協力をいただき、トップ選手から中学生まで活動の場を広げさせていただきました。
国内では栄養教育を中心に定期的な食事調査はもちろん、栄養セミナーの他、時には一緒に風呂に入ったり、稽古時には水分や練習後のリカバリー補給を促すなど、ほとんどの強化合宿に帯同させていただきながら栄養教育の活動を行っていました。
急速減量を防ぐ予防策にあたりましては、監督やコーチ、スタッフのご理解のもと、選手が強化合宿へ参加する条件として、階級制ごとの規定体重を設定させていただきました。規定体重を設定したからには、合宿時で体重・体脂肪の測定を行います。当初は規定外の選手もいました。その際には、選手と共に監督に呼び出され“喝”が入ることも…(笑)。測定開始当初は、選手からもブーイングはありましたが、『今回はいつ測定しますか?』と次第に選手の自己管理が定着していきました。また、連盟の皆様のご理解とご協力を賜り、全日本女子柔道体重別選抜大会時には体重計測のスタッフとして携わらせていただくと共に、体脂肪の測定も行わせていただくようになっていきました。基本、測定データは選手へもフィードバックし、全日本クラスの急速減量を行う選手が減る体制が整備されたように感じます。この場をお借りして再度、お礼を申し上げます。
現在、当時の選手の多くは指導者として全国各地にて活躍をされています。なかには、私が現場で実施してきたことを各所属にて実践しているとのお話を伺うこともあります。
現在は栄養士や管理栄養士を育成する立場として教鞭をとりつつ、柔道の指導者となっている仲間より声をかけていただき、柔道選手をはじめ運動部員らの栄養教育活動を続けております。次にバトンタッチさせていただく上野雅恵監督もそのお一人です。上野監督は体重の維持・増量に苦労されていた選手のお一人です。稽古前、稽古中、稽古後の栄養補給はもちろん、普段の食事ノートを持参して食事相談に来てくれる前向きな選手でした。だからこそ、現在の選手の育成にも栄養面の重要性を考えてくださっていると感じます。
当時を振り返り唯一の後悔は、世界で活躍する選手が多数いるにも拘らず柔道を学ばなかったことです。現役で柔道をする皆さんの中に管理栄養士を目指す方がいるならば、柔道界の支えがより強固になると思います。是非、頑張ってほしいです。
最後に柔道のできない私が15年間半もの間、全日本に携わることができたのは、全日本柔道連盟の柔道関係者をはじめ、地方合宿では宿泊施設や地域の皆様のご理解とご協力があったからこそと感謝しております。スポーツ栄養士として私を育ててくださった皆様へのご恩返し、私にできることがありましたらお声がけいただければと思います。引き続き、皆様のご活躍をFacebookや紙面などを通して応援させていただきます。
有難うございます!またお会いするのを楽しみにしております。
次回は、全日本女子チーム担当時代にサポートをしていた、上野雅恵さんが登場します。