フィリピンOSコース(山田利彦氏)報告(2008.2.6)
1.開催場所
フィリピン共和国・マニラ
2.期間
2007年12月17日~22日
3.会場
Bayview Park Hotel Manila
ホテルの部屋に80畳ほどの畳を敷き詰めた場所を会場とし、講習を行った。
絨毯の上に直に畳を敷いたものの、畳はベルギー製のもので日本のものよりやわらかい為、指導上に大きな支障はでなかった。
ホテルを会場とした理由として、フィリピンではクリスマスを前にして通常よりも渋滞の度合いが激しいことから、移動等による時間ロスを防ぐ目的も兼ねて、私が宿泊したホテルを会場にしたとのことであった。
12月のこの時期でもまだ日中は30度を越える日が続くフィリピンにおいて、空調設備が整ったホテルでの開催は講師及び参加者共に、歓迎すべき選択であった。
4.受講者
フィリピン全土より、柔道指導者及び少数の修行者を含めて、男性34名、女性16名の計50名が、この度のコースの受講を行った。
フィリピンオリンピック委員会より最大50名という人数制限の下、又東南アジア大会直後、そしてクリスマス前の慌しい時期などの要因が重なったにもかかわらず、多くの参加者が集っての有意義な講習会となった。
受講者のレベルはナショナルレベルから、ローカルレベルまでまちまちであったが、みな真剣に私の講習に耳を傾け、積極的に参加していた。
5.講習内容
4日間というOSコーチングコース開催としては非常に短い期間であったことから、事前にフィリピン側に講習内容に関しての要望を尋ねた。
そこで最初の2日間は基本及び初心者や子供達を対象とした指導について、そして残りの2日間は試合等での技術を含めた実践的な指導をとのリクエストに基づいて、講習内容の立案を行った。
初日に山下泰裕・前IJF教育・コーチング理事の在任中に作成した「子供への柔道指導法」のDVDを見せ、楽しみながら、又様々なゲームを取り入れた指導法のアイディアを与え、午後には他の方法も含めた実践指導を行った。
2日目には礼法から組み方や姿勢に始まり、代表的な投技、固技等の紹介や指導法等の教授を行った。
折り返しの3日目より内容を基本から発展的なものとして、投技の様々なバリエーションや実践に即した応用の形や連続技、そして防御法や目的別の打込法等の指導を行った。
そして最終日となった4日目には現実の試合や乱取時に起こる様々な状況での組み手の対処法や乱取の方法、そして実践に即した寝技技術等についてカバーし、当初のフィリピン連盟からの要望に出来る限り沿う形での内容になるよう工夫を行った。
6.所感
私にとってアジアの国で行う初めての指導機会となったこの度のOSコースであったが、フィリピンの柔道指導者及び関係者の素晴らしいホスピタリティーと、柔道に対する真摯な態度に非常に大きな感銘を受けるものとなった。
フィリピン柔道は、競技成績の面では国際大会等でなかなか思うような結果が残せていないのが現状ではある。
しかしながら、その創設から現在まで、多くの日本人指導者の尽力によって築き上げられた日本に対する尊敬心と柔道本来に内在する礼儀をしっかりと継承するその姿に、逆にこちらが学ぶべきことも多かったように感じた。
こうした講習の機会を利用して、柔道の技術的な内容を教授し、当該国の柔道技能の発展に寄与することは大きな目的の1つではあるが、何よりも大切なことは柔道の教育的な価値や柔道の持つ真の意味を伝えることであると考える。
しかし、限られた時間や期間の中での指導では、そうした心の価値を十分に伝えることは容易ではないのが現状でもある。
このような状況が一般的である中、今回の受講者達は皆、非常に礼儀正しく、そうした柔道の真の価値を十分に理解しており、非常に嬉しく思った。
又、日本からの指導者である私に大きな尊敬心を持って接してくれ、大変素晴らしい雰囲気の中で、今回の講習会を円滑に進めることが出来た。
しかしながら、上述の通り、旧来の伝統的な柔道スタイルを主として継承していることから、逆に現在の足を取ったり、組まなかったりといった柔道スタイルに対して国際大会等で十分に対応できていないのが現状でもあった。
そこで、先に述べたようにコースの後半部分では、出来る限り実践に即した形での指導を行い、少しでも現在のスタイルを継承しながら試合等でもその実力を十分に出し切れることを目的とした。
微力ではあるものの、今回の講習が少しでも今後のフィリピン柔道の発展に役立てば幸いである。
7.終わりに
この度の国際オリンピック委員会OSテクニカルコースでの指導を通して、柔道の素晴らしさは勿論の事、改めてその影響力と柔道に内在する民間外交手段としての有為性を痛感した。
海外での指導時には常に感じることであるが、柔道を志す者たちは柔道の更なる理解に情熱を燃やすと同時に、その発祥の地である日本、そしてその伝承を続けている日本人に対しても同様の思いを抱いているのである。
柔道という日本の文化を通して、世界中の異なった民族や、言語、宗教を持つ者同士が、非常に深い相互理解を築くことが出来るという事は、柔道家としてだけでなく、一日本人として非常に喜ばしいことである。
今回の指導を通して、さらに柔道の持つその深い意味の一端に触れることが出来たように思う。
又最後に、滞在中全てにおいてお世話頂いたフィリピン柔道連盟会長のデイビット・カーター氏をはじめとする連盟関係者の方々、そしてこのような機会を与えて頂いた全日本柔道連盟関係者の方々に心からお礼を申し上げたいと思う。