香港 審判・コーチングセミナー(報告)
2011年10月28日(金)羽田発ANA(全日空)にて香港に飛び立った。
香港は面積1104k㎡(東京都二分の一)で狭いながら人口706万人と密度が濃い特別行政区で活気ある街である。29日(土)・30日(日)の2日間、香港の鯉里体育館(Lei Yue Mun Sports Centre)において、香港柔道協会主催による審判・コーチングセミナーが開催された。本セミナーには、講道館からの派遣講師として、コーチングセミナー担当の伊志嶺朝秋と、審判セミナー担当の岡田弘隆が参加し指導を行った。
セミナーは、両日とも14時から16時までが審判セミナー、16時から18時までがコーチングセミナーという日程で行われた。審判セミナー・コーチングセミナー共に100名余の受講生が参加し、皆熱心に受講していた。以下に、セミナーの詳細について報告する。
【10月29日(土)】
セミナーの開始に先立ち、ウォン・ポー・ケー香港柔道協会理事長の挨拶および講師の紹介があった。
審判セミナー(担当 岡田 七段)
1.審判員の心得
審判員自身の礼法を正しく行うこと、選手に正しい礼法を行わせること、まわりからのプレッシャーに影響されないこと、自信を持ち、公平に、落ち着いた態度で行うこと、審判経験を積むこと、審判規定を熟知すること等の重要性について説明した。
2.主審
主審の位置取りについて、試合者との適切な間隔、副審と試合者との間に立たないこと、「まて」をかけるタイミングの重要性の他、主審の姿勢、動作やジェスチャー等の基本事項について説明した。
3.副審
副審の姿勢、動作、ジェスチャー、特に場内外の判断およびそのジェスチャーの重要性等、副審の役割について説明した。
4.意見の相違
主審の判断に対して副審が異見ある場合のジェスチャーや対応の仕方、また副審に異見を示された際の主審のジェスチャーや対応の仕方について説明した。
5.合議
どのような場面で合議が必要であるか、また合議の場面での主審、副審の立ち位置や、合議時間は必要最小限に止めること等、合議をする場合の注意点について説明した。
6.スコアボードの訂正
スコアボードの訂正は主審の権限であることについて説明した。
7.投技での注意点
捨身技を掛け損なった際や、返し技等でもつれた場合の判断について、相手をコントロールしているかどうか、どちらの選手が最後までコントロールしているかを見極めることの重要性について説明した。場外際での攻防について、場内外の判断の仕方について説明し、際どい場合には場内と判断する傾向にあることを付け加えた。また、投技において中断があった場合にはスコアを1つ下げること、関節を極めながらの技は無効であること、投げられた選手がブリッジをした場合の判断の仕方についても説明した。
8.組み方
標準的な組み方について確認し、それ以外の組み方で5秒以上攻撃をしなかった場合「指導」が与えられることを説明した。標準的でない組み方のうち、クロスグリップで相手の肩越しに背中を握る組み方の場合、即時に攻撃しなければ「指導」が与えられることも併せて説明した。
9.寝技での注意点
寝技の展開を見極め、進展がある場合には安易に「まて」をかけるべきではないこと、寝技における場内外の判断基準について説明した。
10.総合勝ち
総合勝ちとなるケースおよびその対応について説明した。
11.ゴールデンスコア
延長戦の場合、ゴールデンスコアにより勝負を決すること、本戦のスコアが引き継がれること、判定になった場合には本戦と延長戦の内容を総合的に判断すること等を説明した。
12.罰則
罰則は、「指導」および「反則負け」に分類されることについて説明し、それぞれの内容および罰則を与える場合のジェスチャーについても説明した。罰則のうち、下半身への直接的な攻撃防御による「反則負け」に関しては、様々なケースの例を挙げて詳しく説明した。また、極端な防御姿勢、偽装攻撃、標準的組み方以外の組み方等、消極的な柔道に対しては厳しく罰則を与えるべきであることを強調した。
コーチングセミナー(担当 伊志嶺 七段)
1.ウォーミングアップ
ランニング、回転運動、寝技の補助運動を行った。
2.固技の基本
抑込技では、袈裟固、横四方固、上四方固の基本を中心に、上からの攻め方、下からの攻め方を説明し、実際に参加者に練習させ、その中で見つかった課題についてさらに詳細な説明を加えた。
3.投技の基本
崩しと体捌きの重要性について、特に人間の重心(バランス)を理解させるよう、様々な例を実演しながら解説した。特に、自分よりはるかに大きくて力の強そうな相手を選び、実際に本気で投げるようにと指示をして技を掛けさせ、その技に対して両手を離した状態で受けても全くバランスが崩れない伊志嶺七段の重心移動と体捌きに、受講生は皆感嘆の表情であった。また、骨格の仕組みを理解すること、遠心力を利用することの重要性についても説明し、具体的な技(大外刈、巴投、出足払)の解説の中でも、繰り返しその重要性を説明した。
【10月30日(日)】
審判セミナー(担当 岡田 七段)
1.試合の終了
主審が試合の結果を指示したならば、主審と副審が試合場を離れた後にはその判定を変えることはできない。
2.医療処置関係
主審は、頭部や脊椎に大きな衝撃のあった負傷、あるいはその疑いがもたれる場合には、主審の判断で医師を呼んで診察をさせ、試合を継続することが可能かどうかを医師に確認しなければならない。その結果、続行できないと判断された場合、合議のうえ相手に「棄権勝ち」を与えることになる。出血がある場合には、主審は医師を呼び、処置をさせなければならない。同じ箇所から3回目の出血があった場合には、副審と合議のうえ相手に「棄権勝ち」が与えられる。それ以外の負傷で選手が医師を要請した場合は、その時点で試合終了となり、相手に「棄権勝ち」が与えられる。選手が嘔吐した場合、相手の「棄権勝ち」となる。これらのことを中心に医療処置関係について説明した。
3.髪の結い直し
選手の要求による髪の結い直しは1回だけ許され、2回目から「指導」となる。
4.柔道衣、衛生、その他
柔道衣、衛生、その他について説明した。
5.DVDを見ながら解説
DVDを見ながら、審判の判断が難しいシーンについての見解を説明した。
6.実習(模擬試合)
模擬試合を行い、参加者の何人かに審判を行わせながら気づいた点を指摘した。
コーチングセミナー(担当 伊志嶺 七段)
1.ウォーミングアップ
ランニング、回転運動、寝技の補助運動を行った。
2.固技の基本および応用
抑込技では、まず、初日の復習(袈裟固、横四方固、上四方固の基本を中心に、上からの攻め方、下からの攻め方)を行わせた。再度それらを詳細に説明し、状況に応じて絞技、関節技が有効であることを説明し、それらについても反復練習を行わせ、その中で見つかった課題についてさらに詳細な説明を加えた。
3.投技の基本および応用
まずは初日同様、身体の重心、骨格の仕組み、遠心力の利用の重要性について詳しく説明し、大外刈、巴投、出足払についてそれぞれポイントを重点的に解説しながら模範を示し、参加者に練習を行わせた。その中でも、特に巴投のデモンストレーションを観た受講者は、そのスピード、無駄のない動き、華麗さに皆驚かされていた。最後に、15分間、オリンピックメダリストの岡田七段が大外刈、大内刈を披露し、ポイントの解説を行って、2日間の全日程を終了した。
最後に、香港における柔道人口は約80チーム1,600名余が登録されており、流石セミナーに参加した者は誠に熱心であった。3泊4日の香港滞在中、大変お世話になったウォン・ポー・ケー香港柔道協会理事長、香港ナショナルチームコーチの安達春樹氏をはじめ香港柔道協会の皆様とは歓談の場を設けて戴き、今後の柔道について時間を忘れ語りあった。
また、このような機会を与えていただいた講道館・全日本柔道連盟に対し、この紙面をお借りして厚く御礼を申し上げます。