日本は現在、超高齢化社会に突入し、高齢者医療をはじめ、さまざまな問題が持ち上がっています。この高齢化社会は日本だけではなく、フランスでも同じ問題が持ち上がっているようです。
フランスでは、この問題に関する対策の一つとして『柔道』が役割を担おうとしているといいます。フランス柔道連盟で「高齢者に合わせた柔道ブロジェクトリーダー」を務めるエリック・シャルティエさんをご紹介します。
(※この記事はピエール・フラマン/広報委員の記事を再構成しています)
<プロフィール> エリック・シャルティエ
フランス柔道連盟『高齢者に合わせた柔道プロジェクト』リーダー。六段。
ヨーロッパ一の長寿国で、柔道による高齢者支援
シャルティエ氏はかつて代表選手を目指し、INSEP(国立スポーツ体育研究所)で練習していました。ジュニアとシニアの全国大会に出場した経験も。指導者に転向して25年が経ち、現在はフランス柔道連盟の専門家として故郷(Seine-et-Marne 県)の県連盟に勤めています。同連盟の医科学委員会委員でもあり、高齢者を対象とした柔道普及活動を行っています。
「この活動は2012年、フランス柔道連盟から『高齢者のための柔道プログラムを考えてほしい』と言われたことをきっかけに始めました。とはいえ、トップを目指してやってきましたので、障がいがある人や高齢者の柔道を知りません。そのため、当初は自信がありませんでした」
まずはシャルティエ氏の道場で、教え子と試行錯誤しながらプログラムを考えました。それを見ていた別の教え子の職場が、たまたま老人ホームだったとか。
「そこでホームを紹介してもらって実際に高齢者の方々の動きを観察させていただき、そこからまたプログラムを組み直しました。その後は実際に指導を始め、3ヶ月スパンで出かけて行っては、参加者の声を聞き、また改良するということを続けました」
以来、現在まで4か所の老人ホームを中心に活動。フランスはヨーロッパ一の長寿国です。6500万人中1100万人が60歳以上になり、徐々に高齢者の割合が増えてきています。また、75歳以上の9割の人が日常生活の事故の転倒によるもので、寝たきりになる不安も高まっています。
「これを防ぐ、一番良い解決方法は年齢に合わせた定期的な運動です。フランスには、約5700の柔道クラブがあります。しかし、医療つき老人ホームの入所者はクラブに行くことができません。たとえ、行くことができたとしてもクラブには高齢者に教えるプログラムがありません。そうした状況から、この活動・プロジェクトに興味を持つようになったのです」
高齢者柔道への貢献を通して、嘉納治五郎の目指した柔道に
フランス人にとって、柔道は異国のもの。柔道衣を着るだけで気持ちが変わります。帯を結ぶ際には指先を動かすので、脳に刺激が与えられます。また、技名はすべて日本語です。外国語を覚えることが脳を活性化することは広く知られています。シンプルな動きでも筋肉を使うので、体を鍛えられます。
「こうしたことから、歩行器を使用しなければ歩けなかった人が歩行器なしで歩けるようになる。洋服を着られなかった人が自力で着られるようになる。自分で食事ができなかった人ができるようになる、服用する薬の量が減ったなど、効果を実感している声が多く届いています」
その上、クラブや指導者にとっては、登録者が増えるという効果もあります。まだプロジェクトの段階で、全国的には広まっていません。
「残念なことに、多くの先生は子どもから大人まで教えた経験があっても高齢者には経験がなく、教える自信がないのです」
そこで現在シャルティエ氏は数県の先生にトレーニングをして、高齢者に教える事ができる指導者を増やしています。
「競技として有名になった柔道ですが、まだまだ競技以外に貢献できる可能性があると私は思います。高齢者柔道は本当に良い貢献で、嘉納治五郎師範の目指した柔道に通じるものと信じています」