――いま、中村先生はどのような立場でカナダの柔道界に関わっているのですか?
私の道場(志道館)がカナダのU-18のユーストレーニングセンターになっていて、ファーム道場(育成道場)として子どもを育てています。で、いい選手になってくると、ギルがナショナルトレーニングセンターのほうに連れて行っちゃうんですね(笑)。
――カナダに行かれて52年。カナダにいる期間が日本にいる期間のちょうど2倍ですね。
そうです。なんか変なカナダ人みたいになってしまっていると思うんですよね。100%日本人としては生活できないですから。カナダ人になっちゃっているところもあると思うんです。でも、やはり心は、日本人でありたいですね。
――カナダ人と日本人の違いは?
カナダ人は個人主義で、思いやりとかは全然ないです。自分のできる範囲ではやってくれるけど、それ以上になると「できない」とはっきり断る。思いやりとか気遣いとか、そういう日本人のデリケートな感情がないんですよね。だからこそ、門下生たちには助け合いの気持ちを持ってほしいと思っています。
――いまの日本の柔道についてどう感じますか?
いいですね、強いですね、素晴らしいですね。サッカーでもラグビーでもそうですけど、発祥の地というのは一番でいられなくなるんですよ。でも、柔道で日本がこれだけ頑張っているのは、伝統と先生方の努力じゃないですかね。世界がこれだけ強くなっているなかで、それでも日本の選手たちが勝つというのは本当に素晴らしいことだと思います。本当に立派、頭が下がります。
――昨年、カナダオリンピック委員会殿堂入りで表彰されたそうですね。
はい。ありがたいことです。でも、その授賞式でも話させていただきましたが、奥さんの理解がなかったらここまでできなかったので、奥さんには本当に感謝しています。
――最後に、これから海外に行きたいと思っている若者にメッセージをお願いします。
私が来た頃とは時代が違いますから、まずは、目的をはっきりさせないとダメだと思います。そして、ある程度の実力は必要です。それと、日本を出る前に五教や形を勉強しておくことです。海外で専門家として教えることを考えているのであれば、最低限、そこはしっかりと習っておいたほうがいい。言葉の問題は、現地に行ってからでも大丈夫。そこは情熱次第です。
プロフィール
中村浩之(Hiroshi Nakanura)
東京都出身、1942年6月22日生まれ。
12歳の時に、講道館で柔道を始める。
中央大学→博報堂→外務省中近東派遣→カナダに渡る。
モントリオール五輪カナダ柔道ヘッドコーチをはじめ、アテネ五輪まで長年に渡りカナダ代表コーチを務める。
現在は、志道館柔道クラブにおいて、18歳以下の有望選手の育成等を行っている。
主な教え子:ニコラス・ギル(シドニー五輪銀メダル、バルセロナ五輪銅メダル)、アーサー・マルジェリドン(男子73kg級世界ランク4位 ※2020年8月現在)など。
居住国:カナダ(モントリオール)
現職:志道館柔道クラブ代表、パンナム柔道連盟形委員、カナダ形昇段審議委員、全柔連国際委員会在外委員。講道館柔道八段。
受章歴:2010年外務大臣表彰、2011年エリザベス二世ダイヤモンドジュビリー、2012年オーダーオブカナダ、2019年カナダオリンピック委員会殿堂入り、2019年旭日単光章。