プロフィール
恵本 裕子(えもと ゆうこ) 1972年千葉県生まれ
「JJM女子柔道部物語」漫画原作者
三井住友海上火災保険株式会社女子柔道部 特別コーチ
講道館柔道女子四段
主な戦績:
1994年 アジア競技大会(広島) 61kg級 2位
1995年 世界選手権(幕張) 61kg級 出場
1996年 アトランタオリンピック 61kg級 金メダル
皆さん、こんにちは。私は現在、漫画の原作者をしています。「ん?柔道家が漫画?原作者?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますので、私が漫画の原作者になったいきさつをお話ししたいと思います。
事の始まりは、小林まこと先生とフェイスブックの友達申請の時、お礼のメッセージを送ったことからでした。「柔道部物語の主人公が高校から始めていたことが、私の励みになりました。おかげ様でオリンピックで金メダルを獲ることができました。ありがとうございました。」その後、フェイスブックでの友達となり、ときどきお互いの投稿記事のコメントのやりとりをしていました。小林先生の切り返しが一般の人とはひと味もふた味も違って、さすが漫画家の先生は面白いなぁと思っていました。そうこうしているうちに小林先生の仕事場と私の家が同じ町内だと判明。同じ町内に越して来た者として、一度ご挨拶することになりました。
小林先生との初対面の印象的だったエピソードは、「恵本さん、面白いから本でも書いたらいいよ!」 「え?私の生き様ですか?」「うん!」私が書くことと言えば、フェイスブックでのささやかな日常、そしてコメントのやりとりです。小林先生は感性を褒めてくれたのかも知れませんが、私は自分の存在意義を認めてくれたようで、どんな誉め言葉よりも嬉しかったことを覚えています。
余談ですが、私を初対面で面白いと言った人は、これまでの人生で2人目です。高校3年生の頃、東京の実業団チームのコーチだった北田典子先輩が、うちの高校の柔道部の別の子をスカウトしに来たのに「この子は面白い!」と、私が典子先輩の御眼鏡に適い人生の転機となりました。詳細は今後、漫画の方で余すことなく書きますね。
その後、小林先生とお会いする機会が何度かありまして、突然、漫画の原作をやらないかと言われました。漫画の土俵は未知の世界で、まったく想像ができません。私には無理だと思いました。そんなある日、小林先生がまた突然、「漫画の第1話目が思いついたから妄想を聞いて欲しい!」と。「妄想ですか?」 「出だしは、オリンピックの前年にあった幕張世界選手権。一回戦11秒の敗退シーン。」「え?!そこですか?!?!」思わず声に出してしまいました。実はその時、わずか一文ですが、小林先生の才能が私の心臓のド真ん中に突き刺さり、感銘という意味での衝撃を受けていたのです。頭の片隅には、私をモデルにした主人公の話は面白いかなぁ~?と考える時がありましたが、この瞬間、「小林先生は天才だわ!」と。
歓喜するような出来事はほんの一瞬で、いつの間にかアイスクリームのように溶けてしまうけれど、絶望は簡単にはかみ砕けなくて、長く苦しい時間が必要です。そんな絶望の瞬間からの漫画のスタートで、第1話目にはすでに翌年のオリンピックで金メダルを獲ると宣言するのです。小林先生は細かく丁寧に第1話目のストーリーをお話ししてくれました。私の目には情景やキャラクターが一緒に動き出していて、聞き終わった時には「面白いですね!私やります!」わずか数分で人生の転機となりました。
連載前の準備期間、柔道選手時代の思い出を振り返り、年表ごとの試合や出来事を思いのままノートに取るところから始めました。強烈な思い出ばかりが浮かんできて頭からずっと離れない・・・。私が感情的だからかわかりませんが、3か月間ほどは、ふとした瞬間に涙が出て止まらなくなることが度々ありました。元々は、楽観的な性格ですので、その嵐が過ぎ去った後は、1つ1つの過程を丁寧に思い出すことができ、連載スタート前には明るい「高校編」の大筋が決まりました。そして、小林先生は漫画家引退中だったのですが、「この漫画は小林先生にしか描けません!描いてください!」と、私からお頼み申し上げて完全復帰してもらいました。小林先生の事情は字数の関係で省略させていただきます。
こうして2016年8月9日 講談社の「イブニング」で「JJM女子柔道部物語」原作:恵本裕子 作画構成脚色:小林まこと で新連載がスタートしました。単行本はおかげ様で累計 100万部を突破しました。
これから先も、ますます個性溢れるキャラクターが登場することになります。指導者や女子選手をはじめ、関わっていく人たちの実在するモデルの想いを、漫画の中で少しでも反映して、今の時代に伝えることができれば幸いです。私の時代の柔道界は男女共に大スター揃いで、みんな輝いて見えました。しかし、スポーツの世界では圧倒的に敗者の方が多いわけです。死力を尽くして頑張った人にも私は拍手を送りたいです。そして、泣いていた自分自身の過去にも。
これからも小林先生と一緒により良い作品にしたいと思っています。この漫画に笑い、時には涙してもらい、多くの読者に支えられています。私はそんな仕事に携わることができて幸せです。そしてまた柔道界に漫画という形で私からの恩返しになることができましたら、こんな嬉しいことはありません。
次回は、実業団時代のコーチであり、恵本さんにとって家族のように大切な存在である北田典子さんが登場します。