――昨年は東京で開催された世界選手権にも出場しましたね。
タンザニアにとって3回目の世界選手権でしたが、ザンジバルから3名、タンザニアから2名の計5名が出場しました。私はナショナルコーチとしてコーチングボックスに入りましたけれども、試合で勝つうんぬんよりあの場を踏めたことが一番の大きなことですね。貧しい国の人たちが日本まで行けて、世界の舞台に立てたわけですから。81kg級に出場した東アフリカチャンピオンALI KHAMIS HUSSEINはリオデジャネイロ・オリンピックのチャンピオン(ハサン・ハルムルザエフ/ロシア)に開始18秒で、内股で一本負けしましたが、これが世界を知るということですね。世界にはもっともっと上がいるというね。等身大の自分を知ることができたことが何より良かったことだと思っていますね。
――8月の初めに新しい道場が完成したばかりと伺いました。
ザンジバル本島の北にあるベンバ島のケンケジャというところに作りました。私のほうで建設の資材を提供して2月に着工し、弟子たちが自分たちでブロックを積み上げ、屋根を葺いて完成させました。
今回、私が指導を始めた初期の一番弟子が現場監督をしました。これまで建てた2つの武道館も、弟子たちを総動員して完成させましたから、弟子たちがさらに弟子たちに技術を伝えて道場ができていく、そういう図式ですね。このケンゲジャの道場では、ジンバブエにJICA海外協力隊として赴任経験のある古内彰先生に指導してもらうことにしています。
――現在の練習回数や頻度はどのくらいですか。
月~金曜日まで毎日、夕方5時~7時までやっています。練習内容は日本の強い高校くらいですね。弟子の多くは仕事を終えてから練習に来ます。私も初めの頃はまだ全然わかってなかったので、練習の開始時間に遅れてきた選手に対して怒鳴ったりしたこともあったんだけど、彼らの手を見ると、セメントだらけなんですね。それを見たときになんて言ったらいいのかな、仕事が終わってすぐに来たんだな、一概に怒ったりしてはいけないな、と思ったことが何度もありましたね。彼らの生活事情を理解してあげないと、いい指導はできないですよね。
――指導にあたって柱としている考え方はありますか。
嘉納治五郎師範が掲げられた「精力善用」「自他共栄」「力必達」です。厳しい練習をやり、厳しい試合に出て勝っていく。人生とまったく同じです。過酷なアフリカの生活の中ではいろんな問題が一年中起きます。とくに死は身近にあるわけです。家族や友人が病気やいろんなことで亡くなっていくんですね。だから、それにいちいちショックを受けて、落ち込んでいたら生きていけない。そのために柔道を通じて、問題が起きてもそこから敢然と立ち上がっていく力、強い精神力を身につけてほしいと思っています。