――髙田先生が教えていたのはどういう人たちだったんですか?
キングサウド大学のなかにあるクラブで、だいたい中学生から大学生の女性に指導していました。一番年上の人は30歳でした。登録しているのは100人くらいいたのですが、みんな毎日は来ないので、1回の練習は20人ぐらいですね。初心者が多くて、柔道経験は長くても1年でした。
――練習内容について。
私のほかにもう一人、私より1年先に来ているエジプト人のコーチがいて、その先生が練習を組み立てていました。内容は、打込とか基本的なことばかりです。その先生がたまにいないときもあったので、そういうときは、みんなに勝ち負けとかの楽しさも教えてあげたいというのもあったので、ミニゲームをしたりもしました。ゲーム感覚で勝敗をつけて、負けたほうにペナルティを課して、負けて悔しいという思いを持ってもらおうという趣旨です。
少し話が飛んでしまうんですが、私がサウジにいるときに、サウジの学校で女性の体育ができたんですね。それまでは、みんな体育をやったことがなかったので、前転とかもやったことがなかったんです。それで、前転をやろうとしたときに「先生どうしたらいいかわかりません」と言われて、「見たままにやればいいよ」と言ったんですけど、「見たままの動きができないから聞いているので、ちゃんと一から説明してください」と。そういうことなら、と「手をついて、頭があたらないように中に入れて」というところから始まりました。体の使い方も、1つずつ説明するよりも、イメージやたとえを使って話す方がわかってくれるという発見がありました。背負投は「畳を蹴るようにして、足を回して持って来て」とか、手首を使う時は「腕時計を見るように」とか、体を回す時は「シャルマ(焼き鳥)を回すように」など。どうしたら伝わるかなということを毎日考えていて、1つずつ理由と一緒に、かみ砕いて、かみ砕きまくって教えました。自分の勉強にもなりました。
――言語に関して、サウジの人たちは英語を話せるんですか?
ほとんどみんな、英語は話せます。私の英語が通じないことも多々あって、大変だったんですが、選手たちが「もっと英語をやったほうがいい」と言って、練習の前後に教えてくれたんですね。一緒に話して、そのなかでコミュニケーションもとれましたし、選手との距離も近づいた気がします。
――サウジには、実際にはどのくらいの期間行かれていたんですか?
サウジには2019年の6月から2020年の4月末までの計11カ月いましたが、2020年3月から新型コロナの影響で練習ができなくなったので、柔道を指導していたのは実質9カ月です。
――志半ばで、日本に戻ることになってしまいましたが。
本当に、これからというときでした。最後に選手に会えたのも、私がサウジに行って、初めての国内大会が3月初めにあったんですけど、それが最後。そのときに、これからのサウジの女子柔道の課題とかも見えて、私も成績が良かった選手を集めて、週に1回練習をしたいということをサウジの柔道連盟に提案して、今度会議で話して、いい方向にしようみたいな話になっていたんですけど、それも、コロナの影響でできなくなってしまったので、本当に残念です。