――生活にはすぐに馴染めましたか? コロンビアは危険なイメージがありますが。
物を盗られたりとかはありましたが、ただ危険というだけで住むぶんには問題ない。こうして話しているということは、つまり命は取られていないということですから大丈夫です(笑)。はじめは小さなワンルームをあてがわれて、そこから練習に通っていました。朝練をやってそこに戻って、午後からまた稽古に出る。柔道を教えられるというだけで幸せだったので、生活に苦労したというイメージはまったくないです。基本的には月曜から土曜までの練習で、月曜だったら朝6時半から1時間くらい朝練をやって、12時から2時半まで一般クラス、16時から18時くらいまでは子どもの指導のために転々といろいろな道場を回る。知り合いとボランティアでやっている道場もありますし、柔道のおかげで人生本当に楽しいですよ。もっとたくさんやりたいくらいです(笑)。
――お給料は良かったですか?
いやあ、もうその話になると……。初めは、貯金を切り崩してやっていました。コロンビアの中では生活できる範囲なんですけど、贅沢はできなかったですね。何か買うときには、1個1個、これはいくらだろうと調べながら買い物カゴに入れていました。物価は安い国なんですけど、そういうことをちゃんとやらなくてはいけないというくらいです。
――スペイン語をほとんど学ばず、いきなり現地に飛び込んだわけですよね?
英語は勉強していたんですが、当然まったく通じない。ただ、あまり苦労はしなかったですね。柔道があって、こちらは教えたい、向こうは習いたいと思っているわけですから、早い段階からコミュニケーションが成立しました。柔道って本当に凄いんですよ。技や「引き手」や「釣り手」などの用語が日本語だというのもあるんですけど、言葉の壁を簡単に越えてしまう。技術の名前は現地風になっていたりしてこれもおもしろい。「韓国背負い」はトルニーヨ(tornillo)、ネジみたいに入っていく技とか、ケンカ四つという言葉はないんですが、デルチャ・エスケーリダ(Derecha e izquierda)で、右と左、とか。柔道を教えることで言葉も覚えていけます。
――愛弟子の女子70kg級世界王者、ジュリ・アルベール選手との出会いを教えてください。
自分が赴任したカリ市の道場にたまたまいたのがジュリでした。初めて会ったのに、この技はどうやるんだ、この技術はどういうことなんだととにかく物凄い勢いで質問してくる。そうして何日かが過ぎて、彼女だけが稽古に遅刻しないことに気付いたんです。毎日稽古の30分前には来てストレッチしている。この子はちょっと違うなと思って話しかけると北京オリンピックに出ていた選手なんだと。とにかくやる気があったので、こっちが楽しくなってしまって、それから指導にのめりこみました。
――出会ったその年のうちに世界選手権で優勝。どんな指導をされたんですか?。
連盟に早く成績を出させてくれと強く頼まれまして、彼女の特徴に合わせた奇襲技、双手刈や朽木倒を教え込みました。手足が長くて身体能力も高く、独特の間合いがある。ももちろんノーマークだったことも大きかったのですが、ミッションを果たして勝たせることができたことは凄く嬉しかったですね。