――東日本大震災のあとに行った『海の道プロジェクト』について教えてください。
2011年の年末に、高校の恩師の根木谷先生から、東日本大震災の被害に遭った大船渡の子どもたちを元気づけるために講習会をしたいから来てくれないかという連絡があったんです。私も日本人として、凄く心配していたので、震災後すぐに道場で募金をしたり、折り紙を折ってもらったり、柔道の講習会を開いてお金を集め、それを日本に送るという活動をしていたんですね。それを根木谷先生が知っていて、今度はお前が日本に来てくれということで、始まったんです。
2012年2月に初めて大船渡に行って、柔道やエアロビクス柔道をやりました。そのときに表敬訪問した大船渡市長から、大船渡を立て直していくには子どもたちの力が必要だから、ぜひ子どもたちに外の世界を見せてほしいと言われたので、フランスに帰ってすぐに、周りの人たちと相談してアソシエーションを立ち上げ、フランスと大船渡との交流をしようとなったんです。
2015年は私たちが夏にやっている柔道の国際合宿の日程にあわせて大船渡から10人の子どもたちを招待しました。そこにはヨーロッパ中から150人、オリンピックのメダリストも来ましたから、子どもたちにとっては刺激になったと思います。2017年には、逆にフランスの教え子10人で日本に行きました。私たちにとっても、子どもたちにとってもいい経験になったと思います。
――海外に行きたいと考えている若者たちへのメッセージを。
私自身、日本を出て初めてわかったことがいっぱいあって、それは、日本の中にいたのではわからなかったと思うんです。自分を振り返って、日本柔道、日本全体、自分が何者なのか、日本人としての誇りとか、そういうものを考えることができた。その中で、いま自分に何ができるのか、自分は何をすべきなのかというのを、自分自身に問いかけることもできた。海外に長くいなくてもいいので、日本を出て、自分自身を振り返る機会を作ってほしい。ぜひ、積極的に出てほしいと思います。
――佐々木さん自身は、これから、フランスで何をし、何を残したいとか、ありますか?
具体的なプランとしては、道場を建てることですが、私自身は、「自分は一つの点であれ」と思っているんです。嘉納治五郎先生の創られた柔道は、これからも変わらずに続いていくと思うんです。私はそのなかのたった一人の柔道家であって、前から受け継いだものを、後ろに引き継ぐ大事な点だと思うんです。ただ伝えるのではなく、伝える前に自分自身がきちんとした点でなくてはならない。人に言うだけのことができるようになることが先で、その後に、つなげていく。何も残そうとは思っていませんし、何も残らなくていい。点になって引き継ぐ。それだけです。
プロフィール
カリウ・佐々木光(Hikari Cariou-Sasaki)
生年月日:1967年10月4日生まれ
出身:静岡県
13歳から柔道を始める
市立沼津高校→筑波大学
ソウルオリンピック女子柔道(公開種目)優勝
コーチキャリア:フランス道場指導
居住地:フランス(ブルターニュ)
全柔連国際委員会在外委員。