――さまざまなオファーから、次の任地をカザフスタンに決めた背景は?
この国は強くなると直感して即決しました。「民族の魂」が強いイメージがありましたし、どんな環境であの闘争心の強さが養われるのか素直に興味がありました。また、まだオリンピックの金メダリストが出ていない国でもあったので、 (大きな仕事を)できるのではないか(笑)。
――カザフスタンの普及の状況を教えてください。
競技人口は3,000~4,000人。民族格闘技のカザックレス(カザフ相撲)をやっていたり、サンボをやっていたり、かけもちの選手が多くて正確な統計が取りにくいんです。国内でお金を稼げるのはスポンサーが多くて賞金も高いカザックレス。カザフスタンの柔道は軽量級が強いイメージがあると思いますが、重量級にも良い選手はいるんですよ。でも、柔道は物凄くハードな練習をして、その上で極めてレベルの高いワールドツアーで勝たないと賞金がもらえない厳しい競技。だったら柔道で鍛えて強くなって、カザックレスに転向してお金を稼ごうという選手が多くなるんです。ただ格闘技が凄く好きな国なので、柔道はかなり人気があります。私は耳が潰れていて格闘技体型なので、街で「何してる人?」とよく話しかけられますし、柔道と答えると「おお!あの選手知ってるぞ」と有名選手の名前がどんどん出てきます。リオ五輪で銀メダルを獲ったイェルドス・スメトフは子どもたちにも大人気です。
――カザフスタン柔道の特徴は? また強化の体制は?
立ち技がカザックレス、寝技はサンボがルーツで関節技が巧みです。カザックレスは膝を着けないので、みな大外刈や内股が得意。強化体制としては、どの競技でも決まった拠点がなく、合宿から合宿を渡り歩くのが大きな特徴です。とにかく「移動」が多く、遊牧民族の国なんだなと実感します。鉄道で3日間かけてやって来る選手もいます。私は81kg級と90kg級の担当で、イスラム・ボズバエフ(90kg級 世界ランキング19位)と1か月一緒の部屋で暮らしたりしました。これは指導のミッションに関わるところで、監督は「カザフの選手はプロフェッショナルとしての自立ができていない、だからあなたが親になってあげなさい」と。朝から晩までずっと一緒に生活して選手としての自己管理を教えていきます。携帯ゲームに夢中で寝ない選手がいたりするので、携帯電話を没収したり、中高生相手みたいな仕事をするときもありますね。
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