佐々木 千鶴(ささき ちづる)1994年 岩手県生まれ
Collège de Koné, Collede de Paiamboue, Lycée Michel Rocard(ニューカレドニアの公立中学校2校及び高等学校1校)日本語教員
講道館柔道女子四段
主な戦績
2009年 岩手県中学校総合体育大会柔道競技 52kg級 優勝(中学3年時)
2011年 岩手県高等学校総合体育大会柔道競技 57kg級 優勝(高等学校2年時)
2016年 第68回岩手県民体育大会柔道競技 成年女子中量級 優勝(大学4年時)
2023年 ニューカレドニアナショナルリーグ 成年女子52kg級 優勝
はじめまして。佐々木千鶴と申します。現在は、ニューカレドニアという南国の島国で、太陽と海と植物に包まれながら暮らしています。
私が柔道を始めたのは、中学1年生の時。柔道家そしてランナーであった父の影響を受けて初めて柔道衣の袖に腕を通しました。柔道経験者ではなかったけれど、部活の時間に一緒に汗をかきながら練習をしてくださった佐藤努先生。柔道の基礎をゼロから教えてくださった島野敏夫先生。社会人として成長するために導いてくださった今川ジャスティンさん、蒲原光一さん、寺下浩陽さんをはじめ、先輩・同僚の皆さん。怪我で一番苦しかった時期に、周囲に感謝し、人として成長するために多くを教えてくださった藤原祐悦先生、増地克之先生、福見友子先輩、杉本美香先輩、平岡拓晃先輩。多くの恩師の方々と仲間たちのおかげで、選手として、指導者として、そして全日本柔道連盟の事務局職員(国際課・普及振興課・新事業開発室)として、様々な形で柔道という道を歩んでくることができました。
筑波大学時代、毎日のように様々な国からナショナルチームやクラブチームが練習に来ていました。怪我ばかりで打ち込みパートナーがいない時期も多かった私は、海外チームや出稽古に来た高校生の中で、一人ぽつりと残っている選手に「一緒に打ち込みしよう」と声をかけていました。武者修行として単身で来日している選手がいた時には、言葉も通じない中できっと寂しいだろうなぁと、練習時間以外にも一緒にランチに行ったりもしました。
大学院時代には、ブラジル(サンパウロ)の貧困街ファベーラにあるNGOで、6か月間柔道指導に携わったこともありました。そこで、私の視点は「どうしたら柔道が強くなるか」ではなく、「どうしたら『柔道』を使って子どもたちや家族が日々抱えている社会問題の解決にアプローチできるか」に変わっていきました。つまり、柔道を通して助けが必要な人に出会い、その人たちが必要としている状況やものにどうしたら近づけるかを、日々考え、試行錯誤しながら実践を試みるようになりました。ファベーラの柔道クラブで、クラブ設立者の先生が教えてくれた言葉を紹介します。銃や麻薬、暴力や貧困と隣り合わせで、教育や仕事へアクセスする機会が少ないファベーラにおいて、「安全な場所がある、人生において正しいことを教え導いてくれる先生がいる、一緒に遊ぶ仲間がいる、第二の家族とよべる空間がある、教育や仕事へアクセスできる可能性が増える、人生の道が広がる。これが、ファベーラにおける柔道なんだよ」
選手時代の私の戦績は、中学校と高校時代の県大会優勝。他の執筆者の方々の足元にも及ばないですが、それでも私は胸を張って「柔道が大好きです」「柔道が私の人生の扉を開けてくれました」と言えます。それは、柔道を通じて、全国各地から集まってきた仲間たちをはじめ、いろんな国や文化、そしてそこに暮らす人々と出会い、かけがえのない友情を育むなかで、新しい価値観や観点を持ち、違いを受け入れ尊重することができるようになったからです。
競技として柔道に取り組んでいる時期には、「柔道」の価値、そして「柔道家」としての自分の価値は、強さや戦績が大きな範囲を占めていると思いますが、みなさんが柔道を続けていく過程で、もっといろんなことを知れて、もっといろんな経験ができて、もっといろんな出会いがあり、成長の機会や新しい出会いをたくさん与えてくれると思います。今この記事を読んでくれている全国の柔道家のみなさんにも、戦績や強さだけにとらわれずに、柔道をきっかけに出会えた人との友情や、柔道を通じて自分自身が大きく優しく成長したことに、感謝と自信と誇りを持ってもらえたら、とても嬉しいです。
文末になりますが、日頃から柔道の発展と普及振興にご尽力されている全日本柔道連盟の各種委員会の皆様、事務局職員の皆様、各地で柔道活動に取り組まれている皆様に、心からの感謝と敬意を表します。重ねて、中学校時代から毎日のように閲覧していた全日本柔道連盟のHPに、執筆者として掲載していただく企画をくださった女子柔道振興委員会の皆様に、感謝申し上げます。ありがとうございました。