プロフィール
渡辺 冬花(わたなべ ふゆか)1968年 千葉県生まれ
講道館柔道女子参段
千葉市立若松中学校 教諭
主な戦績:
1989年 関東学生柔道体重別選手権大会 56㎏級 3位
1989年 全日本学生柔道体重別選手権大会 56㎏級 ベスト8
主な受賞歴:
2012年 監修『DVD 安全に楽しく学ぼう 保健体育 柔道』(東映)
2013年度教育映像祭中学校部門 文部科学大臣賞(最優秀賞)受賞
監修『DVD 安全な柔道の授業づくり』東映)
2013年度教育映像祭職能教育部門 文部科学大臣賞(最優秀賞)受賞
2015年 『学校体育実技指導資料第2集 柔道指導の手引き(三訂版)』(文部科学省)作成協力者
千葉市立若松中学校の渡辺冬花と申します。若松中学校の近くには、有名なスポットが2つあります。1つは、立ち姿が凛々しいレッサーパンダ「風太君」で一世を風靡した千葉市動物公園。もう1つは、日本を代表する縄文遺跡の1つ、加曾利貝塚(特別史跡)です。
この度、敬愛する野瀬清喜先生にバトンを託していただきました。感激です。
私は、埼玉大学柔道部に白帯で入部しました。鈴木若葉選手、溝口紀子選手、石川(旧姓:北爪)弘子選手といった将来の世界大会メダリスト達が高校生の頃から柔道部の練習に参加していましたが、野瀬先生は優秀な選手と白帯の私を区別することなく、指導して下さいました。そして、将来のメダリスト達も私を先輩として遇してくれました。「スポーツが得意な生徒にも苦手な生徒にも、楽しい授業を!」という教員としての信念は、この学生時代の経験が土台となっていることは、間違いありません。すばらしい先生、温かい部員に囲まれて稽古を重ね、昨日より今日、今日より明日!頭の中は、内股とベンチプレスでいっぱいでした。
ところが大学3年の5月13日、稽古中に左鎖骨を骨折。手術を繰り返し、完治したのは大学4年の秋でした。残っている公式戦はほとんどありませんでした。私の最後の試合の相手は、後にオリンピックメダリストとなる楢崎(旧姓:菅原)教子選手、横四方固め一本負けだったような気がします。
大学卒業と同時に千葉県で教員となり、私の柔道競技生活は「それまで」となりました。実は、それから10年ほどは柔道を遠ざけ、テレビ中継さえ見ることなく、後輩たちの活躍はスポーツニュースで知りました。
転機となったのは、中学校学習指導要領改訂、いわゆる「武道必修化」です。学生時代にお世話になった尾形敬史先生、鮫島元成先生に偶然拾われ、学校体育の柔道指導法の普及に携わらせていただきました。
ようやく学校体育で柔道の学習が復活しました。まだまだ柔道衣の購入をお願いするのは難しく、体操服・ジャージでできることを教えています。
中学生女子、柔道が大好きです!若松中は武道場がないので、畳敷きに始まり畳上げに終わる授業。柔道が楽しいから、そんな活動さえも笑顔いっぱいです。写真の女子は、保健体育係の生徒達です。みんな笑顔が素敵なのです。固め技の簡単な試合。投げ技は、膝車と体落とし。自由な動きの中で交互に技を掛け合う約束練習までは到達させたい。
ここまで柔道部顧問になる機会はなく、選手の育成という形では柔道界に恩返しはできませんでしたが、保健体育科教員として柔道理解者の層の拡大に力を尽くす。これが私の柔道です。
「自分の教え子たちが全国に散らばり、柔道界を盛り上げてくれる。教育はすばらしい。」
学生時代に何度も何度も聞いた野瀬先生の教えです。今、ようやく先生の境地に近づくことができた気がします。
そこで、私がこのバトンを託す相手は、埼玉大学柔道部の一つ後輩の平成国際大学教授の三宅仁先生です。学生時代、乱取稽古の後、釣り手の動きなど短時間でしてくれるアドバイスは貴重でした。先日、「まさか女子柔道に関わるとは思いませんでした。」とおっしゃっていましたが、あの頃から女子指導に求められる丁寧な指導の片鱗が見え隠れしていました。詳しいことは、次号でご自身から紹介していただきましょう。
最後にもう1つ。集合写真に写る柔道衣姿の先生と男の子たち。若松中には柔道部はありません。生徒それぞれが地域クラブで柔道の稽古に励み、大会前にチームを組んで特設柔道部として出場した市総体、市新人大会は団体優勝を成し遂げました。その1つの地域クラブの指導者が、写真の森﨑雅人先生です。クラブチームの選手と指導者が、若松中の生徒と教員だったという幸運がなければ、この栄光はなかったかもしれません。在籍する学校の部活動に自分の希望する種目がなければ、大会参加すらも保証されない中学校の現状があります。
部活動地域移行が次年度よりスタートします。この地域移行が円滑に進み、全ての生徒たちが希望する活動を自由に選び、努力の成果を思い切り発揮できる日が来ることを願うばかりです。そのときは、私に何ができるか考え、柔道界の発展のために力を尽くします。
次回は、渡辺さんの埼玉大学時代の後輩にあたる、三宅仁さんが登場します。