⒈講道館柔道の魅力を正しく伝えることができる指導者究竟の柔道指導者像:6つの資質・能力指導者育成の重要性:指導者養成指針嘉納師範の理想と現代コーチング学の融合心理的なディスアビリティへの理解:すべての人が柔道を楽しめる環境を柔道本来の価値の再認識:長期育成指針定しました。この指針は、柔道を通して国民の心身の健全な生涯発達を目指すという柔道本来の目的を再確認し、その実現に向けた具体的な道筋を示すものです。長期育成指針では、柔道に取り組む各ステージ(大まかに幼児期、学童期、青少年期、青年期、壮年期、老年期)における発達段階に応じた指導内容、指導方法を提示しています。競技力向上だけでなく、社会性や協調性、道徳心を育むことを重視し、生涯にわたって柔道に親しみ、その恩恵を受けることができる環境づくりを目指しています。長期育成指針で示された理念を実現し、柔道の未来を創造していくためには、指導者の質的向上および量的確保が不可欠です。そこで、全柔連は「長期育成指針」に基づき、未来の柔道界を担う指導者を育成するための「指導者養成指針」を策定しました。本指針は、「全柔連が求める指導者」(2022年)を踏まえ、嘉納治五郎師範が求めたと思われる「究竟の柔道指導者」を養成することを目的としています。嘉納治五郎師範は、柔道指導者のあるべき姿として、「攻撃防御の技術に堪能で、勝負上の理論も心得、同時に、体育家として必要となる知識を有し、かつその方法にも修熟し、また教育者としては、道徳教育の理論にも精通し、稽古の方法にも達し、さらに柔道の原理を社会生活に応用する上において、精深なる知識を有し、方法をわきまえている事が必要である」と述べています。これは、現代のコーチング学において提唱されている3つの知識を統合した指導と、競技者の全人的な成長を促すコーチングの重要性に合致します。近年、スポーツコーチに求められる知識として、「専門的知識(スポーツ種目の技能や戦術に関する知識)」「対他者知識(他者との関係を良好に保つための知識)」「対自己知識(自己認識や省察、自己制御をするための知識)」があり、これらを統合して指導を行うことが重要視されています。加えて、現代のコーチング学では、スポーツを実践する者が単に技術や戦術の卓越性を修得するだけではなく、社会の一員として全人的な成長を遂げることを促すコーチングが重要であると考えられています。スポーツコーチはその成長や生涯発達にも貢献する必要があり、技術・戦術的な知識Confidence (自信)、Connection (関係Confidenceは自己効力感や自信の向上、Connectionは他者との良好な信頼関係だけでなく、Competence (有能さ)、性)、Character (人格)という「4つのC」に関連する知識を持ち、それらの要素を踏まえてスポーツを実践する者を育成していく必要があります。Competence競技における技術や能力の習得、の構築、そして倫理的価値観や責任感の育成を指します(これらが重要であることは、スポーツの光と影:戦後柔道の変遷とスポーツ離れの要因でも説明をしました)。つまり、嘉納師範が100年以上も前に提唱した柔道指導の原理は、現代のスポーツ科学やコーチング学によって、その有効性が改めて証明されていると言えます。本指針では、究竟の柔道指導者を以下の6つの資質・能力を備えた指導者と定義し、その育成を目指しています。柔道の創始者である嘉納治五郎師範は、柔道を単なる競技としてではなく、「精力善用」という理念に基づいた道として捉えていました。この道が「自他共栄」です。究竟の柔道指導者は、嘉納師範の思想や柔道史、柔道の多様な価値(教育的価値、健康増進効果、国際交流、地域社会への貢献など)を深く理解し、その魅力を広く社会に発信していく役割を担います。例えば、カナダのLTADに、評価の領域を限定する必要があります。例えば、試合で勝つことができない選手は、柔道ができないと判断され(柔道競技なのに柔道と言われるケースがほとんどである)、他の能力や可能性を見過ごされてしまいます。しかし、柔道には、競技力以外にも、指導力、審判能力、柔道文化の伝承など、さまざまな貢献の仕方があります。最も重要な能力は、学習したことを社会に応用して貢献すること(能力)です。指導者は、多様な評価軸を持ち、選手一人ひとりの才能や個性を伸ばしていく必要があります。近年、スポーツ界では、身体的な障害は だけでなく、発達障害や精神疾患などの心理的なディスアビリティを持つアスリートへの理解と支援の必要性が高まっています。これは、物理的な障害だけでなく、健康的にみえるアスリートにも心理的なディスアビリティを持つことがあることを理解しなければなりません。柔道界においても、多様なニーズを持つ選手が、安心して柔道に打ち込める環境(柔道を歩む環境というほうが正確である)を整備することが重要です。指導者は、心理的なディスアビリティに関する知識を深め、適切なサポートを提供することで、すべての人が柔道を楽しめる環境をつくることができます。こうした状況を打開すべく、全柔連は2023年9月に「長期育成指針」を策Characterは道徳的・全日本柔道連盟指導者養成指針解説7まいんど vol.43
元のページ ../index.html#8