全日本柔道連盟指導者養成指針解説柔道の未来を担う指導者育成のために柔道:未来への課題スポーツの光と影:戦後柔道の変遷とスポーツ離れの要因,4 (Nicholls&Polman2007)。さらに、近戦後、柔道はパフォーマンススポーツ(競技スポーツ)として発展を遂げ、国際的な競技として世界中に普及しました。この背景には、1951年に国際柔道連盟が設立され、1964年の東京オリンピックで柔道が正式種目として採用されたことなど、柔道が国際的なスポーツとして認知されるようになったことが挙げられます。しかし、その一方で、勝利至上主義が蔓延し、結果を重視するあまり、選手の心身の健康を軽視するような指導や、過度なプレッシャーを与えるような風潮も生まれてきました。このようなアプローチは、過度な練習量や厳しい減量を強いるため、選手の身体に負担をかけ、ケガのリスクを高めます。それだけでなく、精神的なストレスから、うつ病や不安障害などのメンタルヘルスの問題を引き起こす可能性も指摘されています年では、多くのスポーツで共通の課題として、スポーツ離れが深刻化しています。日本の柔道界においても、競技人口の減少は著しく、その背景には、相対年齢効果、早期専門化、自己決定理論、制御行動、そして運動有能感や自己効力感など1882年、嘉納治五郎師範によって日本伝講道館柔道(以下、柔道)は創設され、以来、柔道は「精力善用」「自他共栄」を目的として、心身を鍛え、礼節を重んじる教育的なスポーツとして、国内外で広く親しまれてきました。ただし、その普及においては、パフォーマンススポーツ(競技スポーツ)としての側面が強調されてきたことも事実です。本来、柔道における格闘技的・スポーツ的要素は、人間形成という目的を達成するための手段に過ぎません。しかし、戦後の柔道界では、勝利至上主義が蔓延し、手段と目的が逆転しているという指摘もあります。日本の柔道界は、競技人口の減少(実施率の低下と少子化により加速)、勝利至上主義・競技実績主義の蔓延、指導者不足といった課題に直面しています。これらの課題は、柔道が本来持つ教育的価値や人間形成における役割が見失われつつあることを示唆しており、柔道の未来を危ぶむ声も少なくありません。【巻頭特集』まいんど vol.43
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