医科学委員会強化委員会重大事故総合対策委員会との連携について柔道による重大事故を減らすため、全柔連では重大事故総合対策委員会が中心になって活動していますが、医科学委員会は医学的な見地からサポートをしています。事故の原因を解明し、防止するための研究を行って成果を論文やホームページで公表しているほか、事故報告書の分析やその後の対応にも関わっています。事故が起きると、全柔連事務局に事故報告書が届きます。私は医科学委員会の副委員長を務めていますが、重大事故総合対策委員会の委員も兼任しており、事故報告書の分析を担当しています。事故報告書は、通常、医療従事者ではなく柔道指導者が保2024年10月より、強化委員長に就任いたしました山田利彦です。前任の金野潤先生をはじめとする、歴代の強化委員長の方々とは比べるまでもなく、実力不足であることは私自身が一番理解しております。しかしながら、不足しているところは、多くの方々にご指導、ご協力をいただきながら、全力を以て任にあたっていきたいと思います。そこで、前女子監督の増地克之氏に統括副委員長、元男子強化コーチの廣川充志氏に男子副委員長、そして前体制から継続して中村淳子氏に女子副委員長を依頼し、経験豊かな3名の副委員長とともに、取り組んでいきたいと思います。強化委員会の第一義は、オリンピック、世界選手権での金メダル獲得であり、その護者などを介して医師からの診断名や治療経過を記載した文書なので、聞き違えた診断名や医学的に不適切あるいは不可解な表現が記載されていることが珍しくありません。事故で救急搬送された場合には救急外来で日当直の医師が診断と治療を行うのが一般的ですが、専門外の医師が診察した場合、その場で確定的な診断に至らず、仮の病名をつけることもあります。医科学委員会には、医学各分野の専門家でかつ柔道を知る医師が多く所属しており、記載された内容の検証が難しい時は、協力を仰ぎます。不明な点があれば指導者や保護者に事実関係を確認し、病院から保護者に渡された説明文書などを提供していただくこともあります。なるべく正確な医療情報を集めたうえで重大事故総合対策委員会のメンバーと協議を行い、医療従事者以外にもわかりやすい表現を用いて、事実を包み隠さずに重大事故総合対策委員会の事故報告書として発出します。これらの事故報告書は個人が特定できないように細心の注意を払ったうえで、全柔連のホームページに誰でも見られる状態で掲載し、事故が繰り返し起きないよう情報を公開しています。事故の再発防止に必要な医学的なアドバイスや、事故に遭われた生徒・選手の競技復帰・社会復帰に向けた医学的なアドバイスなども、重大事故総合対策委員会を通じて行うことがあります。今年度は柔道初心者がヘッドキャップを着けた状態で後頭部を打撲して亡くなるという痛ましい事故がありました。柔道ではヘッドキャップの有効性は証明されておらず(柔道の安全指導2023年第6版10ページ)、一方で、受け身が上達すれば頭部に加わる回転加速度は著明に減少することが医科学委員会の研究で証明されていることから、まずは正しい受け身を身につけることを重視すべきと助言しました。また、重大事故後で選手としての競技復帰は難しいけれども、本人は柔道が大好きで、何とか柔道に復帰させてやりたいと保護者や指導者から非常に難しい相談を受けることもあります。医科学委員会委員長がみずから指導者に電話してアドバイスをすることもあります。重大事故総合対策委員会から、柔道の指導現場の現状などに関する情報を医科学委員会に提供していただくこともあります。部活動の地域移行後の厳しい現状や長引くコロナ下で深刻化した生徒の体力や社会性の低下、体力や理解力の格差の拡大など、事故の新たな要因となりそうな事柄に関する情報も共有し、柔道事故を減らすべく協力し合って活動しています。最近では、審判委員会など多数の委員会との協働で、事故防止のための映像資料の制作なども行っています。全柔連には縦割り行政の弊害や垣根はありません。重大事故を少しでもゼロに近づけ、柔道を通じて人を育て、世の中をよくする。その共通の目的に向かって全柔連はチーム一丸となって取り組んでいます。(医科学委員会副委員長 松永大吾)▲こちらからご覧いただけます▲柔道の安全指導2023年第6版『柔道の未来のために』表紙〜委員会と柔道家をつなぐ伝言板〜委員会委員会の活動状況や、お知らせがありますので、全柔連各種委員会から情報をお届けするページです。お役立てください。 Information
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