まいんど vol.43 全日本柔道連盟
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顔面の外傷、鼻出血、鼻骨骨折、眼窩底骨折(吹き抜け骨折)など顔面外傷の総論顔面は血流が豊富で、外傷では出血量が多いものの、治癒する時間も早いと言われています。また、はじめ腫れや皮下出血が見られますが、患部が心臓より高いため(下肢などに比べて)速やかに改善します顔面外傷は生命的予後を左右することはまれですが、外観的および機能的な問題を起こす可能性があります。顔面の外傷での緊急での対応を必要とするものに気道閉塞があります。気道閉塞はさまざまな原因により生じます。具体的には、骨・軟部組織損傷に伴う動脈損傷による大量出血による全身の循環障害、または出血による凝固塊、歯牙損傷、口腔周辺軟部組織の浮腫あるいは舌根沈下などにより起こります。これらの際は、気道確保といった緊急での処置が必要です。頭輩内の障害や眼球の損傷がある場合や顔面骨骨折がある場合はその治療が優先す柔道ゼミ医療編ゼミナールこのコーナーでは選手、指導者を対象に、それぞれのスキルアップに役立つ話題(コンディショニング、トレーニング、栄養、心理、メディカル、コーチングなど)を紹介します。柔道は組み手などで顔面に手がぶつかることも多く、試合中に鼻出血で処置が必要となることも多く見られます。通常は圧迫で止血されることが多いのですが、なかには鼻骨骨折や、眼周囲にあたった時に眼窩底骨折(吹き抜け骨折)といった後遺症が残るケガが起こっていることがあります。また、目の上(眼がんん瞼け)の裂創により、外科的な処置(縫合)をきたすこともあります。今回は、顔面の外傷の代表的なものを紹介したいと思います。柔道JUDO① 鼻出血ることが多いのですが、軟部組織損傷の中にも緊急性を要する障害があります。眼瞼のけがにより角膜の露出に伴う乾燥による角膜障害や涙小管(涙を出す器官)損傷、顔面神経損傷(麻痺)、耳下腺管(唾液を出す器官)損傷などは速やかに修復手術を行う必要があります。顔面外傷発生時のチェック項目(どのようにではなく何が起こったかが重要です)1.全身状態(気道、呼吸、循環、脳・神経機能)2.顔面骨骨折の有無3.顔面神経の切断の有無4.耳下腺、耳下腺管損傷の有無5.眼球損傷の有無6.涙器損傷の有無7.皮膚・皮下組織損傷の有無顔面の外傷では、上顎・下顎骨折や歯牙損傷により咬合(かみ合わせ)障害を起こす可能性があります。顔面の頭に近い部位の外傷では、眼外傷や耳外傷を伴うことがあります。骨折や出血が副鼻腔に及んだ場合、感染の原因となりやすく、とくに頭蓋底骨折に髄液漏を伴う場合は髄膜炎を合併しやすいので注意が必要です。顔面外傷の時は、常に顔面骨骨折(額部陥没骨折・鼻骨骨折・頬骨骨折・下顎骨骨折・吹き抜け骨折・上顎骨骨折など)を合併している可能性を念頭に入れて対処しましょう。主な症状や合併症状出血・腫れ・皮下気腫・変形・呼吸困難の他、開口障害―頬骨弓、顎関節骨折咬合不全―上・下顎骨骨折、複視一眼窩骨折眉が上がらない、口角下垂―顔面神経麻痺知覚障害・脱失―三叉神経損傷その他、組織損傷や眼球・鼻・耳損傷、また髄液漏などの合併代表的な外傷例外傷による鼻出血の大部分は、ひっかくこと、ぶつかることによる物理的刺激により鼻の入口に近い鼻中隔粘膜の細い血管から出血します。鼻の粘膜には血管が豊富にあり、どの部位でも血管が傷ついて出血しやすいと言えます。なかでも鼻の穴を左右に分けている壁(鼻中隔)の入り口付近にある「キーゼルバッハ部位(図1)」には顔面動脈や顎動脈などの外頚動脈系90%と眼動脈などのPROFILE東海大学スポーツ医科学研究所所長。日本整形外科学会専門医・スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツ医。現在、全柔連医科学委員会副委員長で、96年から08年までナショナルチームドクターを務めた。解説:宮崎誠司東海大学スポーツ医科学研究所 所長左向きの顔図1 キーゼルバッハ部位(矢印)図1キーゼルバッハ部位(矢印)32まいんど vol.43         指導者のスキルアップのための

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