まいんど vol.43 全日本柔道連盟
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が強い弱いは関係なく、子どもにやらせると思います」柔道人口減少の理由はいくつかあると思われるが、その中の一つに“危ない”というマイナスイメージが挙げられるだろう。嘉納師範の自叙伝『嘉納治五郎 と柔道』で “柔道に対する世間の無理解”、“柔道修行者に関する難関”について書かれていたのを思い出す。私の理解で内容を一部要約するが、柔道で頸などを擦りむくため、世間でのイメージは“危険”と感じられていた。しかし、体育として、大いに価値あるものであることを自分(嘉納師範)は理解しているが、世間の人には簡単には理解してもらえない。そして、柔道を学ぼうと考える人を容易に得られない……。「それこそ、柔道の魅力ってなんだろうというところだと思います。柔道は危ないというイメージがありますが、逆に言うと僕は柔道をやっておいたほうが、やらないよりも危険は少ないよというような発想に変えるべきだと思う。そのためには、医科学的な根拠・エビデンスが必要です」解りやすい例を挙げられた。「例えばですよ、車をどう思います? は交通事故もあり危ないですよ、一つ間違えれば死ぬし、危険性も伴う。でもなくならない。なぜかというと、それ以上に便利で必要だからです。料理で使う包丁も同様。危ないというイメージがあるが、危ないからなくしてしまえという発想にはならない。なぜかというと料理に使うために便利で必要な道具だから。だから、柔道の必要性というのもそこだと思うのです。危ないからやらせないではなくて、それ以上にやったほうがメリットがあると思える魅力を発信なります。それはそうです。どの世界でもそうじゃないですか。やはり、それなりの力があるからこそ、発言する力、あるいは動かす力というのは出てくるのです。だからこそ、競技力をどう維持するかというところは真剣に考えないといけない。そのためには、一人ひとりの特性を見抜いた上での指導というのが重要です。……そうしないと必ず先細る。人は無尽蔵に湧いてくるわけではないので、一人ひとりを大切にすることが将来の種蒔きになると思います」そして、柔道とは「嘉納治五郎師範は、純粋に柔道のみ強くなれなんて言っていません。柔道を通して世を補益する人間を創る、要は世の中で社会貢献する人間を創り出すのが柔道だと言っていたのです。強い人間のみを創り出すことが目的だなんて言っていません。僕は学生に対して、自己責任をとる人間になれ! とよく言っています。特に目の前に起こったこと、自分に起こったことから逃げるなと言っています。試合で勝つこともあれば負けることもあるけど、全部それは自己責任であって、審判がどうだとか、ルールがどうだったとか、あるいは調子が悪かったとか、減量がどうだったとか、そんなのは言い訳にしかならない。自分に降りかかったことは全部自分で責任を果たせるようになりなさいと言っています」上水監督の指導は単に勝負に勝つための指導ではなく、人を創る指導だと感じた。柔道の貢献の一つは善良な人間を創ることも挙げられる。これは大きな魅力ではないだろうか。他にもまだまだ柔道の魅力は深く尽きないのだが、この魅力が一人でも多くの人、柔道をやっていない人にも伝わるようになってほしい。と思います」納得のいくお話しであった。「僕は今の柔道界の一つの課題というのは、最初からとにかくキツイ思いをしないといけないとか、苦しい思いをしないと強くなれないとかいう発想が根付いてしまっていることだと感じています。でも、キツさのみを求めたら人は嫌になりますよね? は時代背景もあり、『やれ!』ということが多かったけど、それをやってきた人たちが親になって自分たちが受けた思いを子どもたちにやらせたいかとなった時に、やらせたくないと思う方がいるから柔道から離れていくのだと思うんですよ。そうじゃなければ柔道人口の減少傾向と日本全体の人口減少がだいたい比例するはずですが、柔道人口のほうが圧倒的に減少幅が大きい。もし、柔道をやっていて楽しかったな、柔道をやって俺はこういうことを学んだ、それが今に生きていると思ったら、柔道実績することが必要だと思います」また、試合に向けた強化も重要だが、柔道の普及を考えると“健康と柔道”、そういった観点で柔道自体を行うというのではなく、柔道に関連する動きを行う活動の推進もよいのではないかと提案された。そういう話になったので、筆者の母国フランスの例を少々紹介させていただいた。フランスでは、数年前から老人ホームで柔道をさせることを始めている。歩けない人には杖を持たせ、道衣を着るのは上だけだ昔車  が、着るとやる気がとても変わるのである。(参考:まいんど22号)進歩したら足も使ってやる、そういったこと。監督はそういう感覚、そういう発想が良いと認めてくださった。今後の世界における日本柔道の立場話は変わり、日本柔道が、国際的に影響力があるのは世界一の強化レベルであるからで、でも、それが弱くなったらどうなるのか……これは私の素朴な疑問である。「弱くなったら、間違いなく発言力は弱く柔道をやりたい人が増えるには私の生涯©eJudo©eJudo25まいんど vol.43

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