まいんど vol.42 全日本柔道連盟
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リオデジャネイロオリンピックの翌2017年に、IJF(国際柔道連盟)はセンターテーブルでビデオ判定を担当し試合をコントロールするSV(スーパーバイザー)制度を新設しました。そのSVの指名を受けた私は選手の礼法のコントロールについて審判会議や審判トレーニング等で毎回のように「柔道はお互いを認め合い敬意を持つことが最も大切であり、その心を形で表現するのが『礼』である。だから『礼』は柔道にとって最も大切なことであり、試合時に選手の『礼』をコントロールするのは審判員の重要な責務である」と指導してきました。それでも試合開始時に礼をしないまま相手に飛び掛かっていく選手や敗れて礼をしないまま試合場を下がっていく選手を放置する審判員が目立ちました。ある時、レフェリーコミッションの同僚に礼法徹底の話をしたら「約200か国、それぞれ違う文化を持つ国が加盟する柔道の世界で『礼』を徹底させることは難しい」と言われました。その時私は「コーチの礼を見てくれ。以前はまったくなかったコーチ同志の『礼』が今では全世界で当たり前のように行われていて素晴らしい。選手の『礼』も徹底できるはずである」と主張したら同僚らは「ん……」と考え始めました。このコーチ同志の「礼」は日本のコーチ陣が始めたもので、今ではオリンピックでも実践されているほどに浸透しています。今ではI    JFも「もしも柔道が『礼』を失ったら単なるプレイスポーツになってしまう!」と考え、「礼」のコントロールをしっかり行うように指導しています。てきましたが、「一本」が決まった瞬間や勝った瞬間の派手なアクション(宙返りや走り回り大声を出して観客へアピールするなど)は益々乱れ、敗者への配慮やリスペクトは微塵もない状態です。パリオリンピック男子100㎏超級の決勝戦終了時の両選手の振る舞いは、大切に守り受け継がれた長い柔道の歴史をも汚す行為だと感じました。1964年の東京オリンピック無差別でのヘーシンク氏が勝者指示の前に土足で試合場に駆け上がろうとした自国の関係者を「来るな!」と制止し、対戦相手の神永昭夫選手ときちんと礼をした姿を思い出しながら「今後どうなっていくのか……」と不安でなりません。かシニアから少年の大会までレベルを問わず礼法が乱れている状態でした。私が審判委員会委員長に就任した7年前の全国評議員会の席で「選手の『礼』がまったくできていない。どうなっているんだ!」との厳しいご意見をいただきました。私も同じ見解でしたのでそのため以前よりは試合開始時の「礼」は改善され一方で国内を見てみると、国際大会の影響もあって「まず日本国内から礼法を正しくしよう」と取り組みました。大会審判員には礼法の正しくない選手にはやり直しをさせるように指導し、講習会では「主審の指示により選手は試合場に入ること。『始め』と宣告するまでは戦ってはいけないこと。『それまで』と宣告されたら戦うことを止めなければならない」と説き続けました。今では地方の小学生の大会でも正しい「礼」が行われています。この短期間で「礼」が復活したことは指導者の先生方や審判員の先生方の指導とご協力のお陰だと深く感謝しています。ただこの短期間で変わったということは、裏を返すと少し気を抜くと再び乱れるものであると思いますので引き続き徹底を図っていきたいと思います。最後に、最近気になっているのが男子の試合終了時(一本が決まった時や勝ちが決まった瞬間)の大声です。私の地元の中学生の大会で対戦相手に主審が「指導」を与え勝負が決した瞬間に、勝者がガッツポーズとともに「よっしゃー!」と大声を発していました。残念ながら社会人から中学生、そして全国大会から各都道府県の大会まで目に付く光景です。「無意味な発声や相手や審判員を侮辱する行為や発言」は反則負けと規程されています。形だけの「礼」ではなく「礼の心」を養ってほしいと思います。 8 133まいんど vol.42公益財団法人全日本柔道連盟審判委員会 委員長大迫明伸Contents特集日本、パリパラリンピックで金2、銀1、銅1を獲得! 4特集2028ロスに向け、新体制スタート! 新旧強化委員長対談鈴木桂治&塚田真希両監督に聞くパーク24presentsグランドスラム東京2024大会直前情報 振興課&審判委員会からのお知らせ 16中学部活動地域移行に向けて~中学校柔道振興協議会発足~ 18連載普及の広場 20やわらたちのセカンドキャリア 22伝統を歩く 24L’Esprit du Judoコラボ企画 26海外「JUDO」ホントのところ 28柔道ゼミナール~メディカル編 31柔道ゼミナール~栄養&レシピ編 34登録係からのお知らせ 36委員会インフォメーション 38FROM事務局 462024.11 Vol.42礼の心

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