まいんど vol.40 全日本柔道連盟
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■石井から2人への質問Q1:長期育成指針の内容が難しいという声をたくさんいただいていますが、最初に読んだ際の印象はどうでしたか?廣川 2023年6月、全柔連の会長の交代とともに「長期育成指針」を戦略的グランドデザインとして位置付け、これを共有化して具体的な成果を達成していくことが課題として掲げられました。この長期育成指針(LTAD、FTEM等)という用語は、スポーツ科学の世界ではよく耳にするもので、アスリートの長期的な成長と健康を重視し、生涯を通じてスポーツと運動に参加することを促進しています。また、これらのモデルは、アスリートが成長と発達の各段階で適切なトレーニングと競技の機会を受けられるように、個々のアスリートのニーズに対応したアプローチを採用しています。生物学的年齢を考慮に入れ、アスリートの成熟度と能力に基づいてトレーニングを調整することに焦点が当てられています。この世界的な動きに日本の柔道界も参画せざるを得なくなりました。これは非常に残念なことです。そもそも、嘉納治五郎師範は長期的な視点と科学的根拠に基づいて柔道を体系化しています。しかしながら、他国で見られるスポーツ離れと日本の柔道離れの原因は酷似しています。問題が目の前にあるにもかかわらず、それを認識できていないという危機的状況です。日本の柔道界にある問題を多くの方に認識していただき、それを解決していくために策定された指針ですが、ほとんど読まれていません。読まれたとしても、多くの関係者にとって未知の概念であり、その内容や目的に対する理解は一朝一夕には得られません。柔道人口の減少は新型コロナの影響ではなく、より深刻な構造的問題を示しています。柔道人口の指標を用いて増減を検証することで、1964年の東京オリンピックの次の年のピークから、一貫して減少傾向にあることが確認されました。この減少は、単に「日本の人口減少」によるものでもありません。柔道の価値の低下が主要な原因であることが示唆されています(柔道そのものではなく、柔道の解釈の変化と柔道家の価値が大きいでしょう)。柔道人口の減少は、過去に何度も問題視され、さまざまな取り組みが行われてきましたが、根本的な解決には至っていません。一刻も早く、多くの関係者がこの問題に真摯に向き合うことが期待されます。今回で、長期育成指針の解説も最終回です。長期育成指針を読んでいただいた方から「やっぱり難しい」という声をいただいているので、立場の異なる2名の関係者から質問をいただき、それにお答えする形で進めたいと思います。1名は大人になってから柔道を始めたSさん(女性)、もう1名は廣川充志先生(桐蔭横浜大学准教授)です。Sさんからは一般的な視点で、廣川先生からは専門家の目線で質問をいただきますが、対話形式で進めます。****************S 専門用語にも注釈があったので、全体の文章が難しいとは感じませんでした。ただ、具体的に「私は何をすればよいのか」という答えが知りたいと感じました。文章の難しさよりも、行動に移す難しさがあると感じました。最初の印象は、クオリティが高く、丁寧に作られていると感じました。ただ、直感的に思ったことですが、横文字が苦手な方もいますし、ちょっと難しいなと感じる方がいるだろうなと。私も一度だけでは十分に理解できていませんでした。『まいんど』の解説記事を読んで、もう一度この指針を読んでと繰り返していくうちに理解がかなり深まりました。ありがとうございます。内容を咀嚼して行動に移すまでの理解は非常に難しいということですね。わかりやすく具体的な答えを提示することはできませんか? 目線で「美しい」とか「綺麗」というのは、人それぞれで難しいのですが、化粧品を販売する専門家の方に「目は二重でパッチリ、唇はふっくら艶がある」という答えをもらって、化粧品をお勧めされると、その答えに近づけると理解できて、その商品を購入するという行動に移ります。なるほど。答えを提示するというのはわかりやすいですね。ただ、それができないのです。これまで「勝利」というわかりやすい答えがありました。それに熱狂し、行動をしてきたのです。これが問題になっています。この指針は、すべての方が自身の可能性に気付き(またはそれを支援して)、その可能性を最大にして次のステージに移行していただくことを目指しています。先ほどの化粧品の話でも、専門家の価値観で画一的な物差しを設定していることになります。一石井 Q2:それぞれの感じた「難しさ」を改善するとすれば、何をすればよいですか?S 石井 例えば、女性21まいんど vol.40 連載特集 4

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