まいんど vol.39 全日本柔道連盟
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28回目▲写真1 各国指導者による指導法の情報交換▲写真2 座礼から体幹トレーニングへの移行 教育普及・MIND委員会では、日本の柔道教育普及活動をより充実させるために、各国連盟の協力のもと、世界の柔道最新事情や取り組みについての調査・報告をしております。さて、以前に本会員誌「まいんど」でもレポートした全日本柔道連盟の「転び方プロジェクト」ですが、実は海外では大学をはじめとする研究機関の研究者たちが、すでに、柔道を利用した転倒予防法について検討し、その普及活動を行っています。今回は世界の「転倒予防プロジェクト」について報告します。 WHO(世界保健機関)は、不慮の事故における死亡者数第2位である「転倒」の問題について、この事故から命を守る方法を開発すべきと、世界各国に発信している。2023年11月27~28日に、その情報交換と新たなネットワークづくりのために世界で初めて柔道を利用した転倒予防法の学会“International Conference Safe Falling for Elderly through Judo”が開催された。13か国からさまざまな知見が発表され、各国の情報交換が行われた(写真1)。今回は、その中でも興味深い取り組み2つについて報告する。●Dynamic Balance for Life〈オーストラリア〉 ダイナミック・バランス・フォー・ライフは、オーストラリアのアデレード大学が開発した柔道を利用した転倒予防プログラムだ。65歳以上の高齢者を対象にするプログラムで、導入・中級・上級の3段階に分けられる。導入では、柔道の「体捌き」、「自然体」、「受け身」や「エビ」等の補強運動を取り入れたプログラムだが、中級及び上級に進むと、「立技」や「形」も導入される。 Meera Verma博士は、「転倒予防というとネガティブな印象を与えるので、私たちは活力ある人生を過ごすための動的なバランスを手に入れるポジティブなトレーニング方法を提供す教育普及・MIND委員会 教育普及部会 文/曽我部晋哉(甲南大学 教授) マーヤ・ソリドーワル(津田塾大学 准教授)る」と述べる。転倒予防というと少なくとも健康で自分で運動ができる人を対象としているものが多いが、このプログラムにはフレイル(要介護手前虚弱な状態)の前段階の人も多く参加していて、実際に身体機能が向上しているのだ(写真2)。●JUDO 4 Balance〈スウェーデン〉 2017年、スウェーデン柔道連盟はダーラナ大学の協力のもと「JUDO 4 Balance」という高齢者の転倒を予防し、同時に転倒した際のケガリスクを減少することを目標としたプログラムを開始した。特におもしろいのは、「転倒有能感テスト: Meas uring Falling Competence(SBFC-TEST」という、プログラム前に「転倒に関する本人の気持ちの強さ」を評価するテストを開発し、利用していることだ。例えば、受け身の練習をする際に、足を伸ばして座った状態から後ろにゆっくり転がることさえ、「怖い」と感じる人もいる。そのような人に集団で同じプログラムを実施したら、ケガや事故につながる可能性がある。柔道がすべての人の安全を担保するためには必要な評価であろう。 もはや、柔道は我々が想像している以上に、さまざまな分野の専門家により「人の命を守る」方法として発展している。今後は、世界共通の理論を開発すべく協力していくべきであろう。世界で進む、柔道で命を守るプロジェクト!

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