まいんど vol.39 全日本柔道連盟
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革新的なシステムの重要性とジレンマ       まず、「アスリート・パスウェイ」とは、アスリートとしての成長の道筋を指し、大きく「伝統的なパスウェイ」と「革新的なパスウェイ」に分けられます。伝統的なパスウェイは、子どもたちが偶然に適性に合ったスポーツと出会い、偶然に優れた指導者と巡り会うといった偶然の重なりによって成功に導かれるものを言います。人口が少ない小国では、この偶然に依存する限り、大国と競い合うことが難しいという問題がありました。そこで、「スポーツの成功における偶発的要素の最小化」という考え方に基づいて、組織的かつ計画的にアスリートを発掘し育成するシステムが打ち出されました。このシステムで、発掘・育成されるアスリートの道筋が革新的なパスウェイです。 「本当に小国が大国に勝つような革新的なパスウェイはあるのか?」という疑問を持つ読者のために、旧東ドイツの革新的なシステムの構築とその成果を紹介しました。さらに、このシステムが社会主義国特有の事例ではないことを示すために、自由主義国であるオーストラリアの事例も取り上げました。これらの国々は、科学的根拠と豊富な実践事例を基に革新的なシステムを成功させています。このようにハイパフォーマンススポーツにおける世界各国の取り組みを理解することで、革新的なパスウェイの重要性が浮き彫りになります。人口減少が進む日本、特に競技人口の激減がみられる柔道においては、革新的なパスウェイの導入が急務であることが明らかです。しかし、他国も国際的な成果を目指して革新的なシステムを導入・改善しているため、先進的なシステムを構築することは容易ではありません。また、革新的なシステムの導入、構築、成功の副作用として、「スポーツ離れ」が起こるという問題が明らかになりました。人口の少ない小国が大国に勝つために構築したシステムが優れたタレント候補(タレントプール)を失ってしまうというジレンマをもたらしたことになります。このジレンマを解消するために、先進的な国々は、複雑に絡み合う問題を紐解きながら原因にアプローチできるように長期育成のモデルを構築しています。ここで、日本柔道が抱えている問題との類似点を確認します。まず、戦後の日本柔道は、パフォーマンススポーツ(長期育成指針では競技スポーツとしている)としての発展を遂げてきた経緯があります(藤堂、2014)。1964年の東京オリンピック以降の記録を辿っていけば、パフォーマンススポーツとして国際的な成果を追求し続けていた(世界一であり続けることが使命であった)ことがわかります。日本は、この国際的な成果を追求し続ける過程で、日本固有の部活動を中心とした学校教育主導型の発掘・育成システム(当時は革新的)を構築しました。このシステムは一定の局面まで機能したと考えられます。オリンピックや世界選手権大会で成果を上げ続けられた理由もこのシステムのおかげであることは否定できません。しかしながら、他国と同様に、革新的なシステムでの成功の副作用として、競技人口が減少し続けています。第1回で柔道人口指標をみなさんと一緒に確認しましたが、オリンピックなどの国際大会での成功が競技人口の増加に直結しない現実を認識することが重要です。もちろん、オリンピックなどの国際大会の成功に価値がないわけではありません。私も長く、ナショナルチームの支援を行っていますので、世界一であり続ける使命があり、それを果た(革進的パスウェイ特別委員会委員長石井孝法)前回の特集では、国内の専門家の指摘に加え、他国のスポーツ離れの背景を広い視野で調査し、日本の柔道離れとの類似点を見出しました。専門用語が多く情報量が膨大であったため、内容の焦点が絞りにくかったかもしれませんので、再度ここで簡単に説明します。9まいんど vol.39連載特集 3

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