連載特集 2アスリート・パスウェイ= アスリートとしての成長の道筋 少し専門的な内容になりますが、みなさんにも理解していただけるようにできる限りわかりやすく説明していきたいと思います。 まず、「アスリート・パスウェイ(Athl ete pathway)」という用語から始めましょう。この言葉は国際的に頻繁に使われるようになってきており、アスリートがどのような経緯でそのスポーツと出会い、誰に、どこで、どのように育成されてきたのか、どの時期にどんな大会に参加してきたのか、という彼/彼女らのアスリートとしての成長の道筋を示す言葉です。このアスリート・パスウェイは大きく分けると「伝統的なパスウェイ」と「革新的なパスウェイ」の2つのタイプが存在します。 伝統的なパスウェイは、多くのアスリートがたどってきた一般的なルートをいいます。たとえば、子どもの頃に地元のスポーツクラブや道場でサッカーや柔道に出会い、その子どもが持っている才能と良い指導者の存在によって、トップアスリートへと成長していく過程です。要するに、子どもたちが「偶然」に自分に合ったスポーツと出会い、「偶然」に優れた指導者と巡り合うことで成功への道が開けるものをいいます。 一方、革新的なパスウェイとは、スポーツ適性を見極めることを出発点とし、科学的な手法で才能(タレント)を識別し、組織的で計画的な育成期間を経て、国際レベルの大会へと導くものをいいます。伝統的なパスウェイの「偶然」に頼る部分に限界を感じた国々が、この方法を開発したり取り入れたりしました。これは、「スポーツの成功における偶発的要素の最小化」という考え方に基づいており、Talent Identication and Develo pment(TID、タレント発掘・育成プログラム)という形で具現化されています。このタレント発掘・育成プログラムは、革新的なパスウェイの説明と重複しますが、メダル獲得の可能性を有するアスリート(Talent)を、多くの候補者の中からコーチの目利きと科学的方法を組み合わせて識別(Identication)し、系統立てられた育成プログラムの中で組織的かつ計画的に育成(Development)するものを言います。 専門用語が多くて申し訳ないですが、ここで重要な言葉として「識別」が出てきます。識別とは、競技経験の有無にかかわらず、特定のスポーツで成功の可能性(素質)のある人材を見つけ出すことです。これには、さまざまなテストを用いて適性を判断します。これは、日本の柔道競技で行われるアスリートの選抜(Selection)とは異なるプロセスです。選抜とは、すでにそのスポーツに参加しているアスリートの中から、成功すると考えられる人材をコーチの判断やテストを通じて、選び出す(スクリーニング)することを言います。この違いはとても大切なので、忘れないでください。 前回の特集では、長期育成指針が作成された背景を簡潔に紹介しました。そして、読者のみなさんとともに、1945年から2019年(新型コロナウイルス感染症が拡大する前)までの柔道人口の増減、すなわち戦後の柔道人口の変遷を柔道人口指標で確認しました。1964年の東京オリンピックの次の年をピークに、横ばいの局面はみられたものの大きな流れでは減少し続けていることがわかりました。 柔道人口減少の問題は、今に始まったわけではなく、柔道人口の急激な減少がみられる度に問題視されており、「指導者不足」と「施設の不備」という原因が繰り返し指摘されてきました。残念ながら、柔道人口減少の問題は依然として解決していません。そのため、これらの指摘された原因が本当に妥当なのか、その確からしさを疑ってみたいと考えました。何度疑っても、その原因が変わらない場合、それは問題の核心である可能性が高いと考えられます。この観点から、さらに視野を広げて世界各国のスポーツ人口の動向に着目しました。なぜなら、他の国々でも「スポーツ離れ」が問題視されているケースが見られたからです。この原因を調査し、比較検討することにより、原因の真実性がより明確になるのではないかと思っています。(ブランディング戦略推進特別委員会 石井孝法)9まいんど vol.38
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