Interview NAKAMURA Shinichi▲終始朗らかな表情ながら、ときに厳しい表情も。「価値観・意見の異なるのは当然のことで対立ではない。自由闊達な議論・意見交換ができる風土を作っていきたい」と中村会長 高校は、嘉穂高校に入学したのですが、当時の柔道部はインターハイ2連覇中という超強豪校。本当に強くて、入部は断念し、私はもっぱら同期や先輩たちを応援していました。2つ上に、吉岡剛さん(元全柔連副会長、故人)がいて、それはもう近寄りがたいというか、雲の上の存在でした。――高校卒業後、東京大学に進まれ、大学でも柔道を続けられたそうですが、大学ではどんなふうに柔道と関わられていたのですか?中村 大学に入ると同時に柔道部に入りましてね、大学時代は教室にいるよりも、道場にいるほうが長かったです。といっても、ずっと稽古していたわけではなくて、稽古の前に行ってゴロっと昼寝したり(笑)。道場で過ごしたり、部員と飲んだりする時間のほうがはるかに長い、そんな学生生活でした。大学での戦績に自慢できるようなものはありません。それでも4年生のときには、東京都国公立大学柔道大会で十数年ぶりに優勝しまして。柔道部の仲間たちと美酒を交わしたのが数少ない思い出の一つです。――大学を卒業され、新日本製鉄(現、日本製鉄)に入社。社会人になってからも柔道を続けられたのですか?中村 八幡製鉄所と本社で柔道部員として活動しました。九州実業柔道大会や東日本実業柔道大会などに出場しましたが、稽古不足もあり、成績としては大幅な負け越しでした(笑)。現役引退後も柔道部との関わりは続き、神永昭夫先生(故人)はじめ、諸先輩方から社会人としての薫陶を受けました。2011年以降は、全日本実業柔道連盟の役員を務め、他企業の柔道関係者の方たちとも幅広く交流させていただき、多くのことを学ぶことができました。――全柔連との関わりについてお聞きしたいと思います。中村 2019年に全柔連の外部理事、副会長に就きました。同時期に高校の先輩である吉岡剛さんも副会長になられましてね。あの大先輩と同じ副会長ということでえらく恐縮しました。吉岡さんはそれからまもなくご病気で亡くなられてしまいましたが、本当に残念で、悔しい思いでした。 2020年以降はご存じのとおり、新型コロナが蔓延。3月末に全柔連の事務局でクラスターが発生しました。当時はまだ新型コロナに関する情報も少なく、事務局のみなさんは恐怖と不安で大変な思いをされたと思います。――柔道は身体的接触を避けられない競技ということもあり、どのような対策をとるべきなのか、柔道家、柔道選手たちは困惑し、すがるような気持ちで全柔連の出す指針に従っていました。中村 石井淳子副会長を委員長とした新型コロナウイルス感染対策委員会を立ち上げ、感染症専門家の先生方のご意見を賜りながら、対策等を検討しました。私も委員の一人として参画しましたが、このときの石井副会長のご尽力には本当に感謝しております。医科学委員会を中心に、柔道の練習や大会の運営等について、状況に応じた検討が継続的に行われ、「柔道練習・試合再開の指針」を適宜改定しながら、柔道界への周知を徹底してきました。私自身も、勤務先の会社や実業界の対策等と比較しながらチェックしましたが、本当によく検討されていて、素晴らしい対策だったと思います。関係者のみなさまには改めて敬意を表したいと思います。――新型コロナウイルスの感染拡大により2020東京オリンピックが1年延期。そして2021年に開催されました。中村 やはり感慨深いものがありました。『バブル方式』(選手や運営関係者を隔離し、外部と接触させない方式)のために、私自身は会場に足を運ぶことはできませんでしたが、テレビ観戦で大いに盛り上がりました。また、国民のみなさんの反応を見て大変うれしく思いましたし、柔道の持つ力を改めて実感することができました。出場したすべての選手、そして選手を支えたすべての関係者の方々に、心から感謝したいと思います。勝利至上主義に陥ってはいけませんが、強化活動の重要性を再認識した大会でした。――最後に一言、お願いします。中村 私は、柔道は非常に高い価値を持つ競技と考えています。引き受けた以上は、柔道の普及振興、ひいては柔道の発展のため、しっかり頑張ります。東京オリンピックで柔道の持つ力を改めて実感なかむら・しんいち1959年2月15日生まれ、福岡県飯塚市出身。嘉穂高校→東京大学→新日本製鉄(現、日本製鉄)。新日鉄住金(現、日本製鉄)副社長を経て、現在、日鉄物産㈱代表取締役社長。小学4年生の時、父が教員を務める嘉穂高校の寒稽古に参加したのが柔道との出会い。嘉穂高校、東京大学、そして新日鉄でも柔道を続けた。2019年に全柔連の理事・副会長に就任。2023年6月28日に同会長に就任。趣味はウォーキング。PROFILE7まいんど vol.37
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