連載特集 1もちろん問題は 「日本における柔道離れ」 ですが… 2021年9月16日の理事会でブランディング戦略推進特別委員会(以下、ブランディング委員会)の設置が決まり、東京オリンピックで男子監督として大成功を収めた井上康生氏がチーフストラテジーオフィサーに就任しました。東京オリンピックの熱が冷めやらぬなかでの就任でしたので、みなさんご存じだと思います。 さて、このブランディング委員会はなぜ設置されたのでしょうか。理由はいくつかありますが、全柔連の登録者数が激減したことが主な理由です。この減少は、もちろん新型コロナウイルスの感染拡大の影響を強く受けていますが、全柔連の問題も浮き彫りになりました。それは、「大会が開催されないのであれば全柔連に登録しない」ということです。これは、多くの方が大会に出るためだけに登録しており、それ以外にメリットを感じていなかったことを意味します。新型コロナの感染拡大によって、全柔連は深刻な危機に直面し(「日本の人口減少」が登録者数減少の言い訳にならない)、それを認識することになります。もちろん柔道に関わる私たちの大きな問題は「日本における柔道離れ」ですが、全柔連としては公益財団法人としての「公益性」の意義や価値も問われることになります。私はブランディング委員会の一委員ですので、あまり勝手なことは言えませんが、ここでの「ブランディング」は柔道独自のアイデンティティやイメージを再形成し国民に伝えていくこと、それに加えて全柔連という組織のあり方(公益性)を問い、全柔連が国民にどのように貢献できるのかを考えて具体的に実施していくこと(その流れを作ること)、ここまでが含まれていると考えています。ここで、ブランディング委員会設置時の事業内容を確認してみたいと思います。*************************************1.現代社会における柔道の役割や価値を再定義し、幅広い層に理解される明確なコンセプトを開発する。2.国内大会の動画コンテンツの制作および発信を行い、魅力を伝える。また、撮影・制作した動画を連盟の資産として管理し、将来に亘って多方面に活用する。 3.各専門委員会と連携のうえで柔道の価値を浸透させていくために必要な事業を検討し、推進する。************************************ これが初期に設定された事業の内容になります。ここに記載されていることをブランディング委員会の委員は「俺たちなら/私たちならできるぞ」と意気揚々でしたが、早々にずっこけます。1にある「明確なコンセプトを開発する」が極めて難しいことに気付かされます。このコンセプトを開発するには、まず「日本における柔道離れ」の原因を探らなければなりません。しかしながら、原因を探るための記録やデータが全柔連にはほとんどなく、関係者のインタビュー調査でも主観的な内容(それぞれの想い)で、 2023年6月の評議員会・理事会での決定を経て、山下泰裕氏が会長を退任し中村真一氏が就任しました。中村新会長の就任のあいさつ文に、「戦略的グランドデザインとして策定した『長期育成指針』を共有化し、諸施策の具体的成果をあげていくことが今後の課題」と述べられています。「長期育成指針」という耳馴染みのない言葉が急に出てきて、みなさんは「何のことだろう?」と疑問に思われたのではないでしょうか。そして、その「???」になっているものが全日本柔道連盟(以下、全柔連)の今後の方向性を決めるグランドデザイン(全体を長期的、総合的に見渡した構想)に位置付けられているので、なおさらだと思います。 そんな大事なものが「???」のままでは、みんな困ります。全柔連の立場として「長期育成指針を作成したので、しっかりと読んでください」だけでは親切ではありません。みなさんが長期育成指針をしっかり読んだとしても、全柔連が解決を図ろうとする問題の本質や、この指針を支える膨大なエビデンス、physical literacyの概念などを正確に理解することは簡単ではありません。それは、この指針を支えるエビデンスが科学的なもの(量的で目に見てわかりやすいもの)だけでなく、哲学的な知識(概念)が含まれているからです。できる限り多くの方に理解していただけるように、「わかりやすく」「丁寧に」「粘り強く」伝えていくことが、この指針の作成に携わった私の責任だと思います。 そこで、今回から4回に分けて、長期育成指針を作成することに至った経緯、なぜ長期育成指針が必要だったのかを説明していきながら、長期育成指針とは何かを浮き彫りにしていきたいと思います。(ブランディング戦略推進特別委員会 石井孝法)9まいんど vol.37
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