▲図3.骨の構造▲図4.脛骨骨館部中央に発生する跳躍型疲労骨折(難治性である)▲図6.脛骨近位部の疲労骨折のMRI像(疾走型)▲図5.第5中足骨骨幹部疲労骨折(タイプⅢ)第5中足骨基部の骨折はタイプI:結節部剥離骨折,タイプII:Jones骨折,タイプIII:近位骨幹部疲労骨折に分けられますが、タイプII、Ⅲは難治性です。骨の構造とリモデリング皮質骨内部には骨単位(オステオン)といって、ハバース管を取り囲む同心円のハバース層板からなる円柱形の構造体があり、この骨単位が集合して皮質骨を構成しています。(図3)骨内部には骨細胞が存在する微小な空間(骨小腔)や血管が入る空間(ハーバス管・フォルクマン管)などが無数にあり、これらは力学的に応力・ひずみの集中が起こり、微細な〝き裂〟の発生箇所にあたります。金属などに起こる〝き裂〟の発生は構造の強度を低下させる負の現象ではありますが、生体骨においては、骨に生じる微小な〝き裂〟を感知し、これを除去(吸収)して新しい骨を形成するためのメカニズムを有しています。つまり、〝き裂〟の発生は必ずしも骨強度の低下に結びつくものではなく、むしろ骨格としての骨の維持や向上に付与する重要な因子とも言えます。〝き裂〟が起こった部位の骨の吸収が骨の新生を上回る頻度で起こったものが疲労骨折と呼ばれる個所となります。多くは、力学的ストレスの軽減(運動中止)により、新たな〝き裂〟の発生がなくなり骨新生がなされるために治癒方向に傾きますが、血流障害や応力集中によるひずみ〝き裂〟が多い部位では骨新生が障害されるため、難治性となります(図4)。疲労骨折の症状明らかな外傷はなく、運動直後のみ痛みが出現するものから安静時でも痛みがつづくものまで、病状によりさまざまです。下肢に起こる場合は体重をかけたときの鈍痛がみられることがあります。圧痛部位は、大腿骨に発生する以外は限局されており腫脹や硬い隆起が触れることもあります。典型的な初期症状は、運動中の痛みで運動を止めると消失する特徴があります。症状が進行すると痛みの発現が次第に早まるとともに常に運動を妨げる程度の痛みを生じ、安静にしている状態でも痛みが持続するようになります。好発部位スポーツ種目により発生しやすい部位は異なりますが、中足骨(図5)、脛骨、腓骨などの下肢の負荷の集中する部位に多く見られます。反復動作を伴う練習や重装備での長距離歩行時には特定の骨に繰返し荷重が加わり、それぞれに特有な疲労骨折が生じます。転倒や強打が原因になることはなく、短期的に集中的なトレーニングを行ったときに生じることが多いのも特徴です。診断と治療早期に発見し治療を開始することで、スポーツ現場への早期復帰が可能になりますが、重症化した場合では運動をやめても日常生活に支障を生じる場合もあります。原因不明の痛みが続く場合は医療機関を受診し、疲労骨折が見つかった場合は直ちに練習は中止し、治療を開始しましょう。画像診断の単純X線撮影では、初期には異常が見られないことも多いので、レントゲンで異常がなかった場合でも、痛みが持続する場合は再度受診しましょう。2-3週間後に再検査すると骨折部周囲の骨膜反応(仮骨形成)等の異常が見つかることがあります。MRIは早期診断に有用です(図6)が、超音波検査でも周囲の腫脹や骨表面の不整像などがみられる場合もあります。確定できないことも多いので注意しましょう。女性アスリートの三主徴Female Athlete Triad (FAT)激しいトレーニングを継続的に行い続ける女性アスリートには、健康上のリスクがあると言われています。これらを「女性アスリートの三主徴」といい、アメリカスポーツ医学会(ACSM)や国際オリンピック委員会(IOC)などから予防と対応の重要性が強調されています。疲労骨折が若年の女性に多いと言われるのもこれが原因となることも少なくありません。必要なエネルギー摂取量が慢性的に不足した状態が続き、無月経となってしまう女性アスリートもいます。無月経の状態は、骨を強くするために必要なホルモン(エストロゲン)の分泌が低下してしまうため、骨密度の低下(骨粗鬆症)を引き起こします。その状態で強い負荷のあるトレーニングを続けた結果、疲労骨折に繋がるため、女性アスリートにとって、エネルギー不足にならない栄養への配慮が必要になります。女子柔道選手は一般の人よりも骨密度が高いという報告もありますが、無月経を含めた月経の異常は少なくないとも言われており、疲労骨折以外の問題が起こる可能性があるため軽視すべきではありません。35まいんど vol.36
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