まいんど vol.36 全日本柔道連盟
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メディカル編ゼミナール柔道JUDOこのコーナーでは選手、指導者を対象に、それぞれのスキルアップに役立つ話題(コンディショニング、トレーニング、栄養、心理、メディカル、コーチングなど)を紹介します。指導者のスキルアップのための東海大学スポーツ医科学研究所所長。日本整形外科学会専門医・スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツ医。現在、全柔連医科学委員会副委員長で、96年から08年までナショナルチームドクターを務めた。PROFILE解説:宮崎誠司東海大学スポーツ医科学研究所 所長▲図1.腰椎分離症▲図2.尺骨骨端線閉鎖障害疲労骨折疲労骨折は、同じ動作の繰り返しによっておこるスポーツ障害の一つで、正常な骨の同一部位に軽微な外力が反復して加えられることにより、骨組織に小さなひび割れ(き裂)をきたします。瞬間的な大きな外力により生じる外傷性の骨折と異なり、完全骨折に至ることはまれですが、なかには疲労骨折した部位から外力が加わって完全骨折に至る場合もあります。疲労骨折の発生に関わる要因として、個体の要因(骨の解剖学的特徴、アライメント異常、年齢、運動強度、筋力、タイトネスなど)、運動(トレーニング)方法(適切でない運動、連続した過度の負荷、急激な負荷の増加)の要因、環境(運動する場所、用具)の要因が関係すると言われています。疲労骨折の発症年齢は小学生〜中高年まで幅広く分布していますが、16-17歳に大きなピークがあり中学生と高校生で全体の60%以上を占めると言われています。成長期の骨の特徴や骨端での成長過程という構造の問題や、骨端線閉鎖後では急激な運動量増加が疲労骨折の発症に大きく関与しています。骨の成長段階の途中で起こると、分離して偽関節様(癒合していない状態)となってしまうような場合(腰椎分離症(図1)や分裂膝蓋骨など)や骨端線が癒合しないで残ることもあります(図2)。柔道によっておこる疲労骨折は、特徴的な部位はありませんが、成長期に身体に負荷がかかるので腰椎分離症(大学生の30%程度)や肘頭の骨端線障害は症状が持続することも多いので注意が必要です。また、女性アスリートの三主徴であるlow energy availability(利用可能エネルギー不足)、無月経、骨粗鬆症に伴い疲労骨折が発症することも多いのでよく理解しておく必要があります。骨組織の生理学骨は ① 骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞などの細胞成分 ② コラーゲン線維を代表とする有機性基質 ③ 無機塩であるハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウムの1種)から構成されています。骨芽細胞はコラーゲン分泌や石灰化(ハイドロキシアパタイトの沈着)に関与し、破骨細胞は石灰化した骨の破壊・吸収を行います。しかしながら、骨は骨格を作る多面力学的強度の保持だけでなく、カルシウム濃度を一定に保つために、骨芽細胞と破骨細胞による骨の改変が常に行われ、動的に代謝が行われている生きた組織なのです。哺乳動物の骨組織のなかで先行して骨吸収が起こり、その吸収された部位において骨形成が続いて起こるという代謝様式のことを、リモデリングと呼び、日々新たに作り変えられています。小学生から中高年まで幅広い層で発症しているものの、大きなピークが16~17歳で、中学・高校生に多いと言われている『疲労骨折』。成長期の骨の構造や運動量の増加などが発症に関与すると言われていますが、症状や痛みの度合い、出方は人それぞれ。いずれにしても、早期に発見し、治療を開始することがとても重要です。疲労骨折34まいんど vol.36

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