日本とフランスの柔道について知られているとおり、日本の柔道人口は減少傾向です。氏によれば、ケガの問題による悪いイメージと日本の人口減少そのもの、そして、学校の部活主導の柔道であることが一つの原因ではないかということでした。いま、中学、高校の部活で部員数が一番減っているのは柔道。なぜか? もし、生徒が柔道部を見学して入部を望んだとしても、彼らの親たちには危険に思えてやらせないとのこと。過去何回か柔道の重大事故がありました。それは、頭を打ったとか首の骨を折ったとか。もし、畳がもう少し柔らかかったら事故やケガは減るのではないかとの意見もいただきました。多くの学校の練習場は普通の固い床の上に畳を敷いており、講道館の道場は畳の下にスプリングが入っています。私の母国フランスの柔道事情が話題となり、私の知る限りの話をさせていただきました。少々紹介させていただきます。フランスでは柔道の重大事故による死亡事故はないと言われ、重大事故はたまに聞くことはあります。また、フランスの子どもが柔道をする場所は日本の町道場に似た柔道クラブ。日本と違い学校に部活の制度がないので、子どもたちはだいたい週に2回程度通います。そして大人になっても続けることができます。子どもが柔道クラブに通う目的は、柔道の道徳的な側面を子どもに身に付けさせること。現在のフランスには態度の失礼な子どもが結構います。柔道クラブのなかは小さな社会で社交を学ぶことができ、自信がない人に自信をつけさせることもできます。さらに柔道は礼から始まり礼に終わるから礼儀正しくなる、靴を揃えたり、爪を清潔に切る等、そういった教育的な側面が知られていて、人気が高まっています。そして柔道人口は約50万人(日本と違い試合に出ない人も登録されています)。そうした話から、氏は日本の学校主導の柔道に限界を感じると話されていました。その心は日本の柔道人口が増えてほしいという切なる願いだと思います。もっと夜間に稽古できる場所が増えることも効果があるだろうとも言われていました。氏と私が通う千代田区立スポーツセンターでは夜9時まで稽古ができます。また、いま稽古に来るメンバーの中で氏が一番古いので、現在に至るまでのエピソードを教えてくださいました。「クラブにいま結構人が来るでしょ? 実は昔はあんなに来なかった。いまから10年くらい前かな、僕が寝業研究会に行っていた関係で、当時の指導員の赤嶺利幸先生にやり方を変えようと提案し、稽古を寝業から始めるようにした。そして、寝業が終わったら、小さなクリニック、要するに柔道の技を教えるようなことをやって、後半は立技をやるというふうに変えた。それからだんだん人が増えた」と。氏の柔道に対する熱意、愛情とも言える熱意が人を引き寄せているに違いないと思いました。私も礼儀正しい良い人たちが集う千代田区立スポーツセンターに行くことがとても好きです。仕事をしている人なら、おそらくストレスがあります。そのストレスはどうやって発散するか?柔道家同志「会社でストレスためると、お酒飲んで発散するか、汗流して発散するかじゃない」と氏。「そのとおり。汗を流して発散が健康に良いですね。柔道をすれば、友だちも作れます!」と私。柔道は素晴らしいです。時として柔道愛好家には多くの言葉は必要ありません。通じ合うものがあります。氏は現在も日本マスターズ柔道大会以外にも東京都柔道高段者大会、全国柔道高段者大会、東京・関東地区対抗選抜柔道大会と出場されています。心から尊敬申し上げます。益々のご活躍をお祈りするとともに、私もまだまだこれからだ! という気持ちになりました。次回千代田区立スポーツセンターでお会いするのを楽しみにしています。
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