「日本は、欧州と比較してケガの発生率が高い!」と言われがちですが、はたして実際にそうなのだろうか。各国の道場の協力のもと、12歳以下の子どもの保護者対象にアンケートを実施した。「これまでに子どもが柔道で病院に通院するほどのケガの経験をしたことはあるか」という質問についての結果が図1だ。 病院に通院するほどの受傷割合で最も高いのがイギリスで27.2%、次に日本の19.6%と続く。確かに、これまでさまざまなところで発信されているとおり、日本の受傷割合が高いことがわかる。「あれ? 意外にもイギリスもケガの割合が高いんだ!」と驚かれる人も多いのではないだろうか。余談ではあるが、実はイギリスは最も欧州で柔道の歴史が古く、やや日本に似た雰囲気を持つ道場が多い。一方、フランスやオランダはケガの受傷割合が低く、この差はいったい何なのだろうか? と疑問を持たれるのではないだろうか。 では、どんなときにケガをしているのだろうか。 表1に受傷時の練習内容を比較してみた。 受傷割合が高い国のほとんどは、乱取中にケガをしており、そのなかでも日本は突出して受傷者が多い。一方、フランスやオランダでは乱取での受傷者はほとんどおらず、むしろウォーミング・アップでの受傷が主たる原因の要である。つまりケガそのものは、柔道活動中のケガと言えるが、その内容を見てみると、乱取のような柔道の競技に直結する動作によるものと、そうでないものに分けられることがわかる。 我が国は、子どもであっても他国と比較して、かなり高いレベルでの柔道技術を垣間見ることができる。フランスをみても柔道登録人口のピークは7歳であるが、ケガが多く報告されている年齢は、本格的に乱取が行われ始める13歳~14歳頃の中学生期なのである。つまり、12歳以下はプレ柔道とでも言うべきだろうか。本格的な柔道が早期から導入されることは、決して間違いではない。しかし、その分、ケガの予防法や発育発達の知識などの高い知識が求められる。子どもをアスリートとして捉えるならば、指導者のみならず、子どもたちに対してもケガの予防等に対する正しい知識の啓発が必要ではないだろうか。 教育普及・MIND委員会 教育普及部会 文/曽我部晋哉(甲南大学 教授)日本が欧州よりもケガが多いと言われる理由を深堀りする!24回目 教育普及・MIND委員会では、日本の柔道教育普及活動をより充実させるために、各国連盟の協力のもと、世界の柔道最新事情や取り組みについての調査・報告をしております。よく、「欧州では柔道でのケガが少なく、日本では多い」といった記事を見かけたりします。保険会社から支払われた見舞金などを比較して考察されたものだと思います。しかし、これだけでは各国のケガの状況を比較するには不十分かもしれません。そこで、今回から3回にわたり、各国のケガの状況を「練習内容」「ケガの部位」「練習量」などから検討し、その根本となる理由を徹底的に突き止めていきたいと思います。図1.通院するほどの受傷経験の割合表1.受傷時の練習案内※日本は「回答数28人。重複回答あり」
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