▲写真7 柔道を通して仲間を作り、人生を楽しんでいる高齢者の方々▲写真3 帯の締め方から教わる◀▲写真5・6 受身の練習。ケガをしないよう、指導者がしっかりとつく▲写真4 一応、組み手も経験特集『転び方プロジェクト』イメージが強いのですが、柔道も人気があり、私が練習に参加した道場では大人になってから柔道を始めた方もたくさん所属していました。大人の部も初心者と初段以上の2クラスに分かれており、初心者でも柔道を始めやすい環境が整っていると感じました。スペインでの転び方プロジェクト スペインではAdapted Utilitarian Judo(JUA)の一部として転び方プロジェクトが行われています。JUAは講道館柔道を基にした、健康づくりに焦点を当てた柔道の鍛錬で、その目的は「健康づくりとQOLの向上」とされています。このQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の向上というのがプログラムの非常に大切な部分で、ただ単に健康づくりで終わるのではなく、日々の生活を豊かにするための仲間づくりや自信の向上も目的としています。多くの読者のみなさまも経験があると思いますが、子どものときは何か少しでも新しいことができるようになると、大いに達成感を感じ、それが自信につながって次への挑戦の原動力となります。しかし、大人になるとそのような体験が徐々に少なくなり、生活がマンネリ化してしまうことも少なくありません。そのような大人の人生に新たな発見と自信の向上をもたらしてくれるのがJUAなのです。 JUAの参加者はみな柔道経験がなく、まずは帯の結び方から練習します(写真3)。写真からもわかるとおり、女性の参加者も非常に多いのが特徴です。参加者には柔道の組み手も経験してもらいますが(写真4)、やはり受身のとり方(転び方の練習)は非常に大事な部分です(写真5、6)。万全を期してマットを用いて練習し、練習するときは必ず指導者(講道館柔道6段以上のベテランの指導者であることが多い)が一人ひとりの指導にあたります。普通の受身も練習しますが、頭を守ることを強調して指導することもあります。このような練習を通して参加者の交流も図り、仲間づくりも促していくのがJUAなのです(写真7)。 そもそもなぜ数多くある武道のなかで柔道が選ばれたのか。「『受身』という他の武道にはない動作が含まれることが大きい」とLuis博士は話します。 高齢者が運動する意義は医学の面から2つあります。一つは「筋肉をつける」こと、そしてもう一つは「ケガをしない身体を作る」ことです。前述の内容とかぶりますが、高齢者のケガ防止で一番気をつけなければならないのは転倒であり、仮に転倒してしまったとしても、受身をしっかりとれればケガの程度は最小限に抑えることができます。この点が海外では非常に評価されているようです。 スペインに留学して感じたことですが、人々は人生を楽しもうという喜びに溢れていました。健康のために運動するというのももちろん大切ですが、そこからさらに一歩進んで「柔道を通して仲間を作りQOLを向上させよう」というJUAの考えは、長引くコロナウイルス感染症で他人との交流が希薄になってしまった日本社会にも必要な考えだと強く感じました。(福島医科大学大学院 錫谷研)10まいんど vol.34
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