メディカル編ゼミナール柔道JUDOこのコーナーでは選手、指導者を対象に、それぞれのスキルアップに役立つ話題(コンディショニング、トレーニング、栄養、心理、メディカル、コーチングなど)を紹介します。指導者のスキルアップのための東海大学スポーツ医科学研究所所長。日本整形外科学会専門医・スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツ医、神奈川県体育協会スポーツ医科学委員会トレーナー部会長。現在、全柔連医科学委員会副委員長で、96年から08年まで全柔連チームドクターを務めた。PROFILE解説:宮崎誠司東海大学スポーツ医科学研究所 所長【アキレス腱断裂の概要】アキレス腱断裂は、年間10000人あたり約1人に起こると言われています。統計では、男性のほうが女性よりも多く発症しています。受傷好発年齢は30~40歳代であり、50歳以上の年齢層にもう一つ小さなピークがあります。若年層ではスポーツによる受傷が多いのですが、高齢層にはスポーツ以外の日常活動中の受傷が多いと言われています。アキレス腱は、下腿の腓腹筋とヒラメ筋が形成する人体中最大で最強の腱で、踵骨に停止(付着)します。起立・歩行などの運動に際して緊張と弛緩を繰り返し、疾走する場合に大きな張力がかかると言われています。 【解剖と機能】アキレス腱は、足にあるふくらはぎの下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)をかかとの骨にある踵骨隆起に付着させる腱のことです。ヒトのアキレス腱は長さ約15㎝の腱で、上部ほど太く、下へ行くにしたがって細くなります。腓腹筋は内側頭と外側頭の二頭に分かれ、上部が膝関節を超えて大腿骨の下端に接続している一方、下部は腓腹筋の下層にあるヒラメ筋と合流してふくらはぎの半ばでアキレス腱を形成し、踵骨に接続しています。アキレス腱は歩行、ランニング、ジャン プなどの運動の際、蹴り出すときにかかとを持ち上げ、また着地する足先を地面に踏み込ませるなどの重要な機能があります。しかし、瞬間的に大きな負荷がかかると、腱周囲の炎症やアキレス腱断裂などの外傷を起こします。アキレス腱はパラテノンと呼ばれる結合組織に覆われており、アキレス腱はこのパラテノンから血液供給が行われています。またアキレス腱には付着部から2~6㎝において血流が乏しくなる部分が存在し、この部分でのアキレス腱断裂も多くみられることから、血行不良とアキレス腱断裂は関係していると言われています。 【受傷機転】アキレス腱断裂は、後ろに下がってから前に出ようとする踏み出しの動作や、動作を前後に切り返すとき、ジャンプの着地などで発生します。このときには、アキレス腱への強い伸張と下腿三頭筋の収縮が同時に起こっています。(とくに膝関節伸展位での足関節背屈ストレス)、断裂時に「バチッ」という音がしたり、踵やふくらはぎを蹴られたような感じを自覚することが多く見られます。【症状および診断】すべての診断の鍵となりうる問診は重要です。急に走ろうとしたときや、踏ん張ろうとしたとき、跳ね上がろうとしたときに断裂し、疼痛や断裂感を自覚することが少なくありません。受傷時には蹴られた、ぶつかったと表現されることも多く、足を接地しても踏み返しのできないという特徴的な歩容と受傷のエピソードで、アキレス腱断裂の存在が推測できます。受傷時の特徴的な表現(アキレス腱部を蹴られた、ボールをぶつけられた、 pop音(ブチッとかバチッと表現される)があっただけでアキレス腱断裂と診断可能なほど特徴的なエピソードと言えます。アキレス腱断裂は、主にスポーツ活動で起こり、ジャンプ、ダッシュ、ターンなどの動作によってアキレス腱に強いストレスが加わることで起こります。断裂の瞬間に、「ボールが当たった」「後ろから蹴られた」ように感じ、痛みが生じます。柔道では、それほど多い怪我ではありませんが、一般的に20代のスポーツ選手や40歳以上の人が急にスポーツをした場合に多いと言われています。アキレス腱断裂ふくらはぎの筋肉(左ヒラメ筋、右腓腹筋)ヒラメ筋腓腹筋30まいんど vol.31
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