教育普及・MIND委員会 教育普及部会 文/曽我部晋哉(甲南大学 教授)海外の「JUDO」ホントのところ隣の芝は本当に青いのか?21回目 教育普及・MIND委員会では、日本の柔道教育普及活動をより充実させるために、各国連盟の協力のもと、世界の柔道最新事情や取り組みについての調査・報告をしております。現在、日本における学校教育内のスポーツ活動の在り方も変わろうとしており、2023年以降、中学校における部活動が段階的に地域に移行する方針が示されています。つまり、端的にいうと以前のドイツモデルとでもいうものでしょうか。教育改革が進むドイツ。柔道を取り巻く状況について聞いてみました。 日本の柔道登録人口の減少が話題に上がって久しい。実はこの問題、我が国に限ったことではない。この問題は、世界の柔道愛好家を牽引してきた欧州でも他人ごとではないのだ。現実問題として「新型コロナウイルスの影響でしょ」と言えないのが実態だ。例えば、ドイツの柔道登録者数の推移を見てみる。1995年には22万4333人であったのが、2020年では13万2141人となっており、実に41%も減少しているのだ。 この一つの要因として、ドイツの教育改革が挙げられる。いわゆる「PISAショック」だ。PISAとは、簡単に言うと、OEC D(経済協力開発機構)が実施した国際統一学力テストともいうべきものだ。2000年に実施されたPISAにおいて、ドイツは32か国中「読解」で21位、「数学」「科学」で20位という結果を受け、政府はこの学力不振にテコ入れを始めたのだ。当時、ほとんどのドイツの小学校は午前中のみの授業である「半日学校」であったのだが、現在は午後も授業がある「終日学校」へと転換した。 これまで午前中の学校が終わり、午後からは総合型地域スポーツクラブ(青少年援助)などでそれぞれの好きなスポーツを行っていたのだが、現在ではその活動に参加できない子どもたちが増えている。実際、柔道登録人口の最も減少率の高いのが、7歳~14歳の学童期の子どもたちで(図1-b)、この子どもたちを育成してきたNRW州のクラブ数も激減しているのがわかる(図1-a)。ちょうど半日学校から終日学校に変わる過渡期であった2015年に、ドイツ柔道連盟で行った会議の際に「どうすれば日本のように学校で柔道(部活)ができるのだろうか」と教育普及担当から相談を受けたことを思い出した。 現在日本では、部活動を地域社会に移行する流れ、つまりドイツモデルへの移行を模索中だが、ドイツでは逆に日本をモデルにしたいと考えている。おそらく、今後我が国においても地域社会に部活動が移行するに伴い、さらに柔道の登録人口は減少することは明白である。「隣の芝は本当に青いのか?」お互いにすでに経験しているさまざまな問題点を解決するための新たな方策はないものだろうか。図1-a.NRW州の柔道登録者数及びクラブ数の推移(Wolfgang Dax Romswinkel氏提供)図1-b.2002年から2021年のNRW州の柔道登録者年齢の割合の変化(Wolfgang Dax Romswinkel氏作成)
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