まいんど vol.30 全日本柔道連盟
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教育普及・MIND委員会 教育普及部会 文/曽我部晋哉(甲南大学 教授)海外の「JUDO」ホントのところ組み合うことを知らない子どもたちを救うには?20回目教育普及・MIND委員会では、日本の柔道教育普及活動をより充実させるために、各国連盟の協力のもと、世界の柔道最新事情や取り組みについての調査・報告しております。柔道にあって他のスポーツにはない、柔道の最も大きな特徴の一つが相手と組み合うことです。この「組み合う」ことについて、我が子に柔道を習わせている保護者にその重要性について聞いてみました。 文部科学省の幼児運期動指針(平成24年)をご存じだろうか。柔道のみならずスポーツの指導者であれば、多くの人がある程度この内容を把握しているのではないかと思う。これは、近年の子どもの体力低下に歯止めをかけるために、「幼児期にはこのような運動を獲得することが望ましい」という指針を示したものだ。それに合わせ、幼児期に獲得しておきたい基本動作36も推奨され、なかには、お互いに「組む」といった動作も組み込まれている。この「組む」という動作、一人ではできないために、意外と日常の動きに取り込むのはややハードルが高い。そこで各国の柔道を習わせている保護者に、「組む」ことの重要性やその「機会」の量について聞いてみた。 柔道以外で組み合う機会が「ほとんどない」「やや少ない」との回答が多いのが日本(64%)とフランス(64.7%)で、一方「やや多い」「多い」の回答が多いのがカナダ(42.9%)とオーストラリア(51.3%)だ(図2)。いずれの国においても、高い割合で幼児期に組み合うことは大切だとしている(図1)。この理由として、「子どもの健全な発育のために重要」「自分の身を守るために大切」などのポジティブな記述が多い。ただ、気になる点はカナダでの保護者のフリーアンサーだ。「組み合うことは重要でない」と回答した理由の一つに「暴力的にならないか心配」というコメントに目が止まった。 幼児期は、脳神経系が著しく発達し、未就学児までに成人の80%まで完成するため、一生において大事な時期だ。幼児期はできるだけ安全を確保するために危険な器具や環境は取り除くことが大切だが、安全な環境になればなるほど、子どもの脳から危険なデータベースが構築されないことになる。つまり、相手と組み合ったり、押し合ったりすることで、相手を思いやる力加減がインプットされ、生涯にわたりその経験は生きてくるのだ。例えば、それらの経験がまったくない初心者同士が組み合って、押し合い倒し合いをしたらどうなるだろう。お互いに力の加減なく倒しあったら大ケガにつながる可能性が高くなる。つまり、幼少期に受身を身に付け、相手と組み合う力の加減ができるデータベースを組み込むことが、実は将来の子どもたちにとっての財産になるのだ。 一見、乱暴に見えるかもしれない組み合いや押し合いも、正しくルールに則って経験することで、相手にケガをさせないような思いやりの精神が宿るのではないだろうか。組み合うこと、それは、身体のやりとりだけではなく、心のやりとりを学ぶもの。まさに、自他共栄だ。柔道の価値は、無限にある。多くの人にそれを伝えていけるかどうかは、われわれ柔道家の振る舞いにかかっている。図1.幼少期に友達同士で組み合ったり押しあったりすることは大事だと思うか。図2.子どもの環境で、柔道以外に周りの友達と互いに組んだり押しあったりする機会は多いか。

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