私の柔道に関する一番の思い出は、2007年9月13日から16日まで、ブラジルのリオデジャネイロのアリーナ・オリンピカで開催された、第25回世界柔道選手権大会観戦ツアーに ナビゲーター(添乗員兼案内役)として同行した体験です。この大会にはスペシャルコメンテーターとして藤原紀香さんも来ていました。9月16日最終日の試合では、女子48㎏以下級で、浦沢直樹さんの漫画『YAWARA!』の主人公・猪熊柔の愛称「ヤワラちゃん」と呼ばれていた谷亮子さん、女子無差別では塚田真希さん、そして男子無差別の棟田康幸さんが金メダルを獲得するなど、日本の選手の活躍は感動的で、見ごたえのある試合の連続でした。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、無観客試合となった東京2020オリンピックにおいても、日本の柔道は史上最多となる9個の金メダルを含む12個のメダルを獲得し、テレビで観戦していてもそれなりの感動はありました。しかし、柔道に関してはやはり、試合会場に足を運び、選手と同じ空間で応援することをお勧めします。会場でライブ観戦すると選手の息遣いも感じられ、投げられたときの畳の音など迫力が違います。また、事前に現地の柔道を取り巻く文化や参加選手のプロフィールなどを知っておけば、新たな気づきも増えて感動も大きくなるのです。例えば、ブラジルには柔道に似たブラジリアン柔術と呼ばれる格闘技がありますが、これは柔道の創始者であり、日本のオリンピック初参加に尽力した嘉納治五郎氏の講道館で学んだ、前田光世氏が伝えたものと言われています。すなわち、前田光世氏から熱心に柔術を学んだブラジル人カーロス・グレイシー氏が、弟のエリオ・グレイシー氏とともにリオデジャネイロに道場を開いたことから、ブラジルに柔術が広がったのです。この柔術は、本来は平安時代に端を発する日本古来の武道で、主に護身を目的とし、徒手武道として受け継がれてきました。柔とは「柔らかい」もしくは「譲る」ことを意味し、術とは「わざ」を意味するので、柔術は「柔らかさ」と「譲る」技術です。一方、柔道は明治期に嘉納治五郎氏が柔術各流派の良いところを吸収し、「柔よく剛を制す」の理念のもと、柔術で身体を鍛え上げるだけでなく、精神的な鍛練も重視する「道」として発展を遂げました。そして今日の柔道は、嘉納治五郎氏が築き上げた講道館流を主流としていますが、講道館とは「道を講ずる館」と言う意味であり、「道」とは、人の生活を成り立たせている本質を言うのです。『柔の道は一日にしてならずぢゃ!』は漫画『YAWARA!』に登場する猪熊滋悟郎氏の著書名ですが、同様に「ローマは一日にしてならず」とは、「すべての道はローマに通ず」の「道」が、一朝一夕でできたのではないことを言っているのです。私の本業である旅行業においても「道」は重要で、私は「道」こそ人間の創造した最も素晴らしい発明の一つ「柔の道」と「旅の道」日本旅行作家協会会員 黒田尚嗣柔道は、試合会場に足を運び、選手と同じ空間で応援することで迫力も感動も増大!38まいんど vol.29
元のページ ../index.html#39