▲名大2年生のときに女子も七大学戦の公式戦となり、念願の、名古屋大の名を背負って試合に出場▲週に1回、2人のお子さまと組み合って練習もするという保田さん。「経験者ママの特権です」◀自らの洋菓子店を構えるかたわら、愛知県菓子技術専門校で洋菓子教科主任も務める――柔道を始められたきっかけは?「中学生のとき、バルセロナオリンピックを見て、興味を持ちました。中学校には柔道部がなくて、高校でやってみようと。同期は女子が12人、男子が4人。つかみあって体をぶつけあうというのが心の底から興奮する感じで、とにかく楽しかったです。部員同士も仲が良くて家族みたいな感じでした。柔道は競技中のお互いの距離が近い分、特別な絆が生まれる気がしますね」――大学時代はどんな感じでしたか?「名古屋大学には柔道をやるために進学したようなものでした。とにかく学生柔道をやりたかった。箱根駅伝とか好きだったので、学生スポーツに憧れがあったんです。ところが、いざ見学に行ってみると『女子いらん』って言われて…。ショックでした。女子部員もいたのですが、あくまで男子中心。当時は、部の最大の目標である七大学戦(東大、京大など旧帝大七大学による寝技を中心とした勝ち抜きの団体対抗戦)も、女子の部はまだ公式試合がない時代でした。正直入部を辞めようかとも思ったんですが、先輩たちが七大学戦に向けて必死に練習しているのはわかったので、それを見て判断しようと。で、実際に見たら七大学戦に惚れてしまいました。それからは、まず普段の練習で自分たち女子の存在をどう認めてもらうか、ずっと考えていました。そして、大学の名前を背負って七大学戦で試合がしたかった。2年生のとき、七大学戦でも女子の部が公式戦として認められました。うれしかったですね。毎年、試合が正式に決まる主将審判会議まで緊張で張り詰めていたので、試合自体の記憶はほとんどないくらいです」――大学では数学を専攻。卒業後はケーキ作りの道に進みます。「数学もケーキ作りも好きだったんです。その時々に関心があることに、思い切り取り組む。将来どこかでリンクすることがあればいいかな、くらいの感じですね。ケーキ作りについては小学生のときに姉の真似をして作ったらうまくできて、ふるまうと喜ばれた。これが原点です。大学の部活を引退してから、子どもの頃からよく食べていたケーキ屋さんで求人募集があったので、『ご縁だな』と思い、そこでアルバイトを始めました。そのまま卒業後7年間修行しました」――その後、独立してお店を構えられました。「もともと修行している間は、お店を持つことは考えてなかったんですけど、独立したいとは思っていました。結婚して子どもも育てたい。そのときにお店で働くスケジュールだと不可能だから、フリーランスでできないかと考えていたんです。30歳を前に独立して、最初は無店舗で受注生産を中心に、出張販売や洋菓子教室もやりました。完全予約制にしたので自分でスケジュールを組めた。子育てとも両立できました。10年くらいその形で続けて、3年前から店舗を構えました。外に開かれた場所ができたことで、人とのつき合いが増えましたね。ケーキって喜ばしいところに登場するものじゃないですか。うちの場合、特注ケーキが売りなので、『こういうシーンでこういうケーキを出して喜ばせたい』という、想いやサプライズを形にするお手伝いができる。そういうところが魅力ですね」――柔道に打ち込んだことは役立ちましたか?「洋菓子作りは、朝7時から夜11時までイスに座るのは休憩時間だけ、というような体力が必要な仕事だったので、柔道で鍛えていたのが役立ちました。あとこの世界もやはり厳しくて、当時は男尊女卑の空気も強かった。他店では『女には焼き物は教えない』と聞き、『はいはい。その感じはもう(柔道で)知っているぞ』と。だけど、拘束時間が長くてずっと一緒にいるので、柔道部のときと同じ『家族理論』が持ち込めた。師匠をお父さんと決めてついていくなかで、だんだんといろいろ教えてもらえるようになりました。そういう点で、自分の思ったようにいかないときでも、しなやかに対応できる軸を自分のなかに持つことができたのも、柔道のおかげだと思います。現役の頃も、ケガして練習にフル参加できないときは、やれることを探して工夫していました。そういう経験が、子育て期間にどうやって仕事をするか、というときに違う形で生きています」――次世代のみなさんへエールをお願いします。「何かやり遂げたことがある経験は、その後の人生で支えになります。女子が男子のなかで柔道をやるのは少しハードルが高いかもしれないけど、その分誇りに思えます。あと、いま2人の子どもが通う守山道場で父母会のお手伝いをしています。週に1回ほど自分も柔道衣を着て練習していますが、子どもと組み合えるのも経験者ママの特権ですよ」保田菜穂子(旧姓山田)ほた・なおこ1978年生まれ。愛知県名古屋市出身。県立千種高校で柔道を始める。県大会団体で3位入賞。名古屋大学では女子主将を務める。名古屋大学理学部数理学科を卒業後、洋菓子店で7年間修行を積み、独立。無店舗でのケーキの出張販売や洋菓子教室からスタートし、3年前に名古屋市守山区に「オーダーケーキと焼き菓子の工房 Atelier705(アトリエナナマルゴ)」をオープン。愛知県菓子技術専門校で洋菓子教科主任も務める。PROFILEやわらたちのセカンドキャリア〜私たちの選択〜「喜んでもらえるのがうれしかった」と、子どもの頃から好きだったケーキ作り。柔道で培った体力としなやかな思考をいかし、厳しい職人の世界で腕を磨き、パティシエとして活躍する保田菜穂子さんを紹介します。保田菜穂子さんが選んだ道 パティシエFILE.13ケーキ作りの修行や子育てにも柔道の経験が生きている32まいんど vol.29
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