まいんど vol.29 全日本柔道連盟.
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[ 特 集 ] 東京2020パラリンピックミックスゾーンから見た東京2020パラリンピック大会 「失われたものを数えるな、残っているものを最大限に生かせ」とは、パラリンピックの父と言われるL. グットマン博士の言葉であり、パラ大会参加の精神的支柱とも言われている。 全3日間メディア担当者として日本武道館のミックスゾーンに立つ機会を得た。グッドマン博士の言葉を反芻しながら、取材に答える選手や通り過ぎていく選手たちの姿と言葉を思い返し、パラリンピック大会について綴ってみたい。 ただ涙しながら無言でミックスゾーンを去っていく選手。何に怒っているのか、天井を見つめながら怒りの言葉を発する選手もいるなかで、記者の質問にきちんと答える選手たちも思ったより多かった。とくにメダルマッチに勝利した選手はここまでの道のりがいかに困難であったかを涙ながらに語ってくれる。 男子100㎏級で金メダルを獲得したイギリスのスケリー選手の話はどん底に落ち、仕事も失ったなかで、柔道をやめなくて本当に良かったという内容で感動的だった。イギリスのメディア担当も何度も目頭を押さえていた。 そんな選手たちのコメントのなかでも3日間を通して私の心に一番響いたのは男子60㎏級の平井孝明選手の言葉。彼は敗者復活戦で敗れ悲願のメダルには届かなかった。以下、彼の言葉を覚えている範囲で記載してみる。 「目が見えないことは不便だけれど、それは決して不幸ではなく、頑張れば幸せを感じるときがくる。僕は柔道に出会えて自分の病気に対する考えが大きく変わりました。柔道をやることが苦しいと思った時期もありましたが、前向きに生きていこうと思うことができました。日本武道館で試合ができ、とても幸せでした。もっとこの幸せな時間が続けばいいなあと思いました。こんな僕の試合を見て、『平井ができるのだったら僕も私もできる』そう思ってくれる人が一人でも多く現れてほしい」 悔し涙が頬を伝うなかでもしっかりと前を向き、大きな声で記者の質問に答える姿と彼の言葉に、ミックスゾーンにいた多くの人が涙していた。 失ったものの悲しみを乗り越えて、残っているものを使って必死に努力する姿をイメージできるからこそ感動し拍手を贈る。また失ったものの悲しみを乗り越えられない人にとってもパラアスリートの言葉は、力強いメッセージとして響くのだと思う。社会には失ったものの悲しみをまだ乗り越えられない人もたくさんいると思うし、また乗り越える手伝いができる人も実は周りにたくさんいるのではないだろうか。パラリンピック大会での感動は双方の人を気づかせるきっかけになったし、共生社会はこんなことから拡がっていくのではないかと思う。 みなさんの周りで視覚を、聴覚を、知覚を失い、その悲しみを乗り越えられない人が現れたら、こう言ってほしい。『あなたには残っているものがある。一緒に柔道をやろう』と。 NPO法人日本視覚障害者柔道連盟事務局長 松下邦彦

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