まいんど vol.27 | 全日本柔道連盟
25/44

教育普及・MIND委員会 教育普及部会 文/曽我部晋哉(甲南大学 教授)海外の「JUDO」ホントのところ老舗料亭の日本、フランチャイズ・レストランの欧州。そのメリット・デメリット17回目教育普及・MIND委員会では、日本の柔道教育普及活動をより充実させるために、各国連盟の協力のもと、世界の柔道最新事情や取り組みについての調査・報告をしております。今回は、日本と欧州では、柔道の学び方に違いがあるということに触れたいと思います。日本の伝統的な師弟関係による学びと、欧州の共通でマニュアル化された学び、両者の違いはどんなところにあるのでしょうか。今回は、フランスの指導書をみながらその理由を考えてみましょう。 欧州の指導者との会話のなかでよく言われるのが「日本の指導システムは素晴らしい」ということだ。「日本の中学や高校の部活動は、どこもまるでナショナル・トレーニングセンターのようだ」と。確かに、学校教育のなかで柔道部を指導されている先生方の多くは、柔道を幼少期から経験されており、また日本のトップ選手として活躍された方も多い。そのような経歴を持つ先生方に指導を受けることができるのだから、欧州の指導者からみれば、部活動の現場は、まさにナショナル・トレーニングセンターなのだ。選手の特性にあわせて、指導者自身が指導ポイントを指摘し、改善していく。選手自身も指導者の技を見て、真似して、体験して、そして習得していく。まさに師匠から弟子へ日本伝統文化を継承する際の学びの方法、「守・破・離」と言える。そこに、日本で統一された指導法はない。統一された指導法がなくても、結果として師匠と弟子の関係性のなかに、統一された方法が醸成されていく、という言い方が正しいのかもしれない。 一方、欧州を代表する柔道大国フランスはというと、「誰でも・どこでも・同じ柔道教育を」…これはまさにフランチャイズ・レストラン方式だ。つまり、指導法がマニュアル化されており、研修を受けてそのマニュアル通りに指導すれば、同じ品質の柔道が保てるというわけだ。例えば、フランス柔道連盟の柔道指導マニュアルを見てみよう。「4歳~5歳」、「6歳~8歳」、「9歳~12歳」「13歳~15歳」「15歳~年17歳」のように年齢ごとに指導書が分かれている(写真1)。それぞれの世代に応じた「習得すべき能力」と「その根拠」が最初に示され、その能力を獲得するための練習方法がビジュアルで示されている。 例えば4歳~5歳のテキストをみてみる。タイトルは「The awaking to JUDO from the age of 4 and 5」(英語版)、「柔道への目覚め」とでも訳そうか。前半部分では、イラストが多く文字数も少なめなのだが、内容は実にしっかりしている。「子どもがある動作を遂行するためには、3つの認知が必要である。そのためには、……」など理論が充実している(写真2)。 後半には、獲得能力とともにそれに適した練習事例が掲載され、教える側にも優しく丁寧な内容で、仮に柔道の経験者ではなくても、この年齢層なら指導できそうだ(写真3)。「隣の芝は青く見える」とは、このことかもしれない。日本にいては、柔道を学ぶこの環境は、このうえなく素晴らしいと感じにくいかもしれないが、日本には老舗料亭のような他では真似できない味がある。一流を目指すなら日本で柔道、という良さがある。一方、欧州の、均一の質が保証されたマニュアル化指導法は、一般大衆に理解されやすく、柔道未経験者の保護者にとっては、習い事として安心感があるのは間違いない。さらにグローバル化し、世界がより緊密になるなかで、お互いの良さを掛け合わせて、これからの子どもたちへ柔道を継承して いけたらより柔道がおもしろくなるのではないか、と期待が膨らむ。写真1 フランス柔道連盟年齢別テキスト写真2 充実した発音・発達論写真3 ビジュアル化された練習方法

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る