柔道護身術会議(ドミニカ)報告(2006.11.15)
ドミニカ共和国における柔道セルフデェフェンス・カンファレンス(柔道護身術会議)報告
2006年秋、世界ジュニア選手権の開催に伴い、ドミニカ共和国(サントドミンゴ市)においてIJF教育コーチング委員会が主催した柔道セルフデェフェンス・カンファレンス(柔道護身術会議)が10月9・10日の日程で、世界各国のコーチ陣を集めて開催された。
ドミニカ共和国は、カリブ海ではキューバに次いで2番目に大きなイスパニョーラ島の東部3分の2を占めており、国全体の面積は日本の九州に高知県を足したくらいの大きさである。
この国は、コロンブスが第1回航海のときに足を踏み入れ、当初スペインによって新大陸で最初の町が造られ繁栄したが、その後ヨーロッパ列強や、隣国ハイチの支配を受け、さまざまな苦難を乗り越えて、1844年に独立を果たしている。
この国の記憶に新しいところでは、今年、東京地方裁判所でドミニカ共和国移民訴訟判決が行われ、国の責任は認定されたが、移民事業の実施から20年以上経過しており国家賠償法に基づく賠償請求権は消滅したとの判断で原告請求をすべて棄却された。
しかしその後政府が特別一時金を支払うことで、原告側も控訴を取り下げた。カリブ海の遠い国で、多数の日系移民の方々が苦しんだことを我が国の歴史の一つとして、私たちは忘れてはいけないことだろう。
IJF教育コーチング委員会が初めて開催する柔道セルフデェフェンス会議は、カリブ海のボカーチカ海岸の海を眺められるDon Juan Hotel(ドンファンホテル)で開催され、山下泰裕IJF教育コーチング理事が挨拶に立ち、世界では多くの人々がセルフデェフェンスを目的として柔道を始めている。そしてまた、指導者の多くが柔道の技を指導するだけではなく、護身を目的とした技も指導している。
そのような意味では、セルフデェフェンスも柔道指導にとっては大切な分野であり、このカンファレンスが各国の今後の柔道普及・発展に寄与してくれることを願っていると開式の挨拶をした。
この会議は3カ国4名の講師を迎えセミナー形式で行なわれ、エキスパートとしてアメリカ柔道連盟から斉藤登氏・竹内久仁子氏による「子供のための護身法」、フランス柔道連盟からMr Domagata Eugene(ドマガタ・ユージン)の「柔術を取り入れた護身法」、またイラン柔道連盟のMr Bahman Fekrat(バハマン・フェクラート)の「警察官の護身法」など、午前の部(講義)及び午後の部(実技)に分け、エキスパートがデモストレーション行いながら各国のコーチ陣に指導した。
講習の内容は異なり「子どものための護身法」は、子どもや弱者など柔道の経験のない人でも簡単な方法で身を守ることのできる安全を回復する護身法で、体のさばきや危険から安全への離脱を主に行う指導であった。
また「柔術を取り入れた護身法」では、すでに柔道や武術の心得がある者を対象にした専門的な護身法が紹介された。欧米では柔道クラブの他に、柔術クラブで護身術を学んでいる者も多くいるように聞いている。「警察官の護身法」では、武術練習を前提とした特殊な護身法が演武され、イランのお国柄が想像されるような高度な逮捕術であった。
IJFが企画するコーチセミナーは各国で度々行われているが、柔道を通したセルフデェフェンスの模範演技は初めての試みとあって、各国のコーチは非常に興味深そうに見入っていた。
近年、治安が良いといわれてきた我が国も、新聞やテレビの報道でもわかるように、一般の人や子どもたちが巻き込まれる犯罪が増加している。それぞれの国における状況や治安はその国々で大きく異なり、この講習で紹介された柔道セルフデェフェンスがそのまま各国で指導されるとは思わないが、柔道の経験のない者、またこれから始めようと思っている人たちに「自分の身は自分で護らなくてはいけない」といった心構えを持ってもらうことは、柔道指導の一つの試みとして、今後我が国の柔道教育の一環にも柔道セルフデェフェンスは役立つように感じている。
短い滞在ではあったが、IJF教育コーチング委員会が主催した柔道セルフデェフェンス・カンファレンス(柔道護身術会議)は、柔道を指導する私自身にとって大きな収穫であったと確信している。帰国の際ドイツのコーチが、柔道護身術を早速指導に取り入れていきたいと言った言葉が非常に印象的で、いつまでも心に残っていた。なお、柔道セルフデェフェンス・カンファレンスで行った4名のエキスパートのデモストレーションの模様は、2007年3月以降にDVDとしてIJF(国際柔道連盟)加盟国に配布される。