2010年講道館柔道セミナー(モンゴル)報告
2010年6月5日から17日まで、モンゴル柔道連盟からの招聘により、同連盟主催の指導者セミナーでの指導とモンゴル選抜体重別選手権大会への出席のため、講道館から同国の首都ウランバートルに派遣された。
モンゴルは日本の約4倍の広大な面積を持ち21からなる県を擁している。北はロシア、南は中国に接しており、草原・森林・砂漠地帯から形成されている。全人口は約280万人。その内、ウランバートルには100万人が居住している。全家畜(羊・山羊・牛・馬・ラクダ)は4400万頭でこれらの酪農者の住居は移動可能なゲル(丸いテント)がほとんどで有名である。年間気候状況であるが夏は20~25度、冬はー30度越える日もあり寒暖の差が激しい。国民性か気候条件か肉食とウオッカ?が原因とは言い難いが平均寿命は男性63歳、女性68歳である。
セミナーの参加対象者は国内の指導者40~50名。ナショナルチームのコーチから警察監督・地方の道場指導者等が参加するセミナーであった。モンゴルではモンゴル相撲が盛んであるが、参加者のなかには朝青龍を育てた指導者もいた。従って、相撲と柔道を兼務する体力的に優れている者も多く、最近は柔道がメジャーとなり政府も力を入れている状況である。数十年前はサンボが盛んであったが現在はまったく鳴りを潜めている。さて、私が指導者セミナーを実施した内容を次の通り報告いたします。
[1] 期間 2010年6月7日~12日
セミナー 午前10~12時 午後3~5時 一日2回
6月15・16日 モンゴル選抜選手権大会 見学 メダル授与式(写真別途)
[2] 指導内容
■ 7日(月)
①11am~12pm: セミナー開講式
指導者の在り方 柔道基本の重要性 (写真別途)
②3pm~5pm 受け身・固技・打ち込み・投技
・基本的な受身(初心者への指導)、基本的な抑込技(袈裟固・横四方固・上四方固)
・基本的な打ち込み(組手の重要さ)、基本的な投技(柔よく剛を制すの理論)
■ 8日(火)
①10am~12pm: 固技
・上から攻め技(袈裟固・横四方固・上四方固)
②3pm~5pm: 投技
・大外刈・大内刈・小外刈の指導 (相四つ・喧嘩四つの攻め方法)
■ 9日(水)
①10am~12pm: 固技
・上からの攻め技(絞技・関節技)
・固技のビデオ観賞(全日本選手権・世界選手権等) (別添 写真)
②3pm~5pm: 投技
・背負投・一本背負投・小内刈(力の配分・2連続技等)
・投技のビデオ観賞 ( 〃 )
■ 10(木)
①10am~13pm: 投技・固技
・下からの攻め技(抑込技・絞技・関節技)
・逃げ方の方法 前回の復習
・投技(巴投・足払)・固技のビデオ観賞
・打ち込み方法(固定・移動1人~2人~3人打ち込み)
■11日(金)
①10am~12pm: 立技・寝技の連携
・投げた後の寝技攻撃と投げられた後の寝技攻撃
・寝技の連絡技(例:抑込技~抑込技、抑込技~絞技、抑込技~関節技)
②3pm~5pm: 投技
・体落・支釣込足・内股・払腰・跳腰・連続技(3~5技)
・投技のビデオ観賞
■12日(土)
① 10am~12pm: 総合まとめ
・固技・投技の復習
・強化トレーニング方法(手・腕・足・首・腰等)
・新ルールの復習
・指導者の在り方(再度説明)と心・技・体の重要性
②2pm~3pm: セミナー閉講式
・セミナー参加者に修了証を手渡す (写真別途)
[3] セミナーを終えて
このセミナーにあたって私をサポートしていただいた青年海外協力隊(JICA)派遣の小倉大輝氏には大変お世話になり深く感謝するとともに、任地で柔道に情熱を燃やして頑張っている彼にエールを送りたい。
モンゴルの指導者には何が必要か?」から入り込むため、小倉氏の意見を尊重し、「柔道の基本」と「指導者の心構え」を重点に取り組んだ。
現在、世界各国の指導者はモンゴルに限らず実績重視主義に走っており、柔道本来の考え方から少しずれが生じているのが現状である。(日本も同様)
私がまず感じたのはモンゴルの先生・生徒達は礼儀正しいこと。これは最近モンゴルの多くの選手が日本の高校や大学で勉強し帰国して指導者となっていることが挙げられる。
従って、柔道に対しても「礼から始まって礼に終わる」精神は受け継がれていると察した。
柔道連盟の組織も他国より充実しており、例えばナショナルチームの一員になれば、年間通してウランバートルに滞在し柔道に専念できるシステムになっている。
各選手の所属団体の協力は元より、国のスポーツ政策が大きくフォローしており、その影響を受けてか最近の国際大会では輝かしい成績を残している。
しかし、モンゴルに大変な問題が浮かび上がってきた。国際試合審判規定の改正である。今までのルールはモンゴルにとって最良のルールであった。なぜなら、モンゴル人は子供の頃から相撲に親しむ習慣があり、また肉食が主食なので体力的にも旧ルール柔道に適している環境にあったからである。
帯から下を持って攻撃する技「双手刈」「肩車」等を得意技とする選手が多く、今後新ルールの試合で得意技を使えない状況で試合をするのに戸惑いもなく出来るか心配する。
このような状況下で、今回の指導者セミナーが開催されたことは、正しい姿勢・組み方を初めとする柔道本来の姿を理解してもらうことの意義が深く感じられた。
柔道は力だけでない「心・技・体」どれが欠けても頂点には到達しない。特に心(目標と実行動)は年齢に関係なく指導者として大事なことだと何度も繰り返し指導した。
[4] モンゴル選抜体重別選手権を観戦して
6月15~16日ウランバートル市内オリンピックセンターにて開催された。東京で開催される世界選手権大会の選考会であろう。
IJFルールの改正によって、多くの選手は新ルールに挑戦するこの試合は、役員・選手等大事なステージになると思料する。
私が観戦した中で、記憶に残る選手は60kgのトゥムレグ選手(世界ジュニア選手権2位)66kg級のツァガンバートル選手(世界選手権1位)である。
彼らは背負投から小内刈り~肩車を主として力強い攻める試合を展開していた。100kg級では北京オリンピックで金メダルを獲得したツブシンバヤル選手を決勝で一本勝ちを収めたテムーレン選手(日本大・全日本学生体重別選手権1位)が最も日本柔道の形が出来ており、近々新旧交代がなされるであろう。
なお、無差別ではダヴァンヤム選手(大東文化大卒)がオール一本勝ちで優勝した。
最後に彼らの得意技は下半身を攻めることが身に染みており、反則的な際どいシーンが数度あった。幾つかのケースについては私には判断が付かないものもあり、現地からJUA審判理事である川口孝夫先生に電話し、教えを請いモンゴル指導者に助言した。
今後の国際大会は新ルールが浸透するまで、審判・選手等試行錯誤を繰り返しながらの船出といって過言ではない。
[5] 主な面会者の紹介
① 6月7日 日本大使館 10日 日本料理店 懇親会 (写真別途)
日本大使館 城所卓雄 大使 小山 勲 書記官
② 6月8日 MOC協会表敬訪問
モンゴル・オリンピック副会長 T.ダムディン氏
③ 6月9日 国会議事堂隣 懇親会 (写真別途)
国会議員 バット・エルデン氏
④ 6月9日
モンゴル・ナショナルチーム監督・コーチ 懇親会
⑤ 6月12日 修了式 (写真別途)
ヨーロッパ柔道ユニオン 事務局長
⑥ 6月16日 モンゴル柔道選手権 メダル受賞式 (写真別途)
国会議員(大臣)MJF会長 バッタルガ氏
上記のとおり、今回の柔道セミナーを通じて立場ある方々と面談等したことは、講道館柔道の教えが生きていると痛感しました。
特に国会議員であるバット・エルデン氏からは是非、現在のレスリング柔道から本来の「精力善用自他共栄」精神を選手達に訴えてほしい旨の強い要望があった。