――生活面で困ったことなどはありましたか?
いつも困っていますよ(笑)。柔道の先生は出費ばかりが多いですから。カナダに来て、最初の2年は道場を回ったり、契約でちょこちょこ教えていたんですけど、ヒザをケガしましてね。手術して3か月くらい入院して、貯金も底をついちゃって。これはもう日本に帰らなきゃダメかなと。あの頃はホントにきつかったですね。子どもが産まれたばかりでしたし。そのときに、生徒も手伝ってくれて、自分の道場を持つことにして。でも、自分の道場を作ってから最初の6か月くらいは収入も全然なかったです。だからそちこちのハイスクールだとか大学とかカレッジとか小学校のお昼の時間とか、柔道衣を3つくらい持って、朝から晩までずっと柔道を教えて歩いて。1日6~7時間は柔道を教えていましたね。週末はクリニック(講習会)に呼ばれるんで、そんなことでなんとか生活をしていました。
――道場にはどのくらいの門下生が?
最初は、モントリオール郊外にある、ショッピングセンターの裏で始めたんですけど、子どもが200人くらい来ていました。だけど、大人があまり来ないんですよね。15~20歳くらいの一番鍛えたい年頃の子どもはいないんです。小さい子どもはいくらでも集まるんですよ。だから、土曜日なんかは、朝の8時から1時間ごとに3時頃までやっていました。土曜日の8時くらいに親が子どもを連れてくるんですけど、その後、親はショッピングに行っちゃったりして、子どもを迎えに来ないんですね。託児所みたいな感じでしたよ(笑)。
――子どもたちが柔道をする目的は?
一番は身体を動かすこと、運動としてですね。次に、しつけ。柔道が教育的な指導をするということは、ケベックはフランス人が多いので、結構みんなわかっていて。道場では、ケガをさせず、楽しく飽きさせないようにしながら、きちんと人の話を聞き、相手をリスペクトする人になってほしいと思って指導をしていました。
――どんな指導をされたのですか?
12歳くらいまではとにかく受身をしっかりと身に付けること。それから試合に出して、自分に目標を持たせてあげる。誰も彼もがチャンピオンになれるわけではないので、子どもの能力や才能に合わせて目標を持たせる。それを見極めることが大事なんですね。やみくもにみんな同じようにチャンピオンを目指すと、落ちこぼれる子が出てしまうので、チャンピオンが無理そうな子は最終的な目標を黒帯にして、黒帯をとれるまでなんとか頑張らせるようにしました。
途中でやめてしまうと、大人になってから自分の子どもをやらせることもなくなってしまう。いまうちの道場には、最初の頃に来てくれた人たちの孫が来ていますが、近くひ孫も来ると思うんですよ。だから、悔いのないところまでやる、やり切ったという気持ちまでもっていくことが大事だと思うんです。
若い頃は、私についてくればチャンピオンになれるからと言って誘ったりしていましたが、それはあまり良くないですね。本人が自分の意志でやるようにしないと、なれなかったときに裏切られたような気持ちになってしまう。時間は返せないですからね。だから、この子はここまでと思ったら、それまでのプログラムというか、将来を考えたプログラムを考える。この子はチャンピオンになれるという場合は、その子をマキシマムまで上げるのがコーチの役割だと思うんです。