プロフィール
西田 優香(にしだ ゆか)1985年東京都生まれ
日本大学スポーツ科学部 助教 講道館柔道女子五段
主な戦績:
2010年 世界選手権大会(東京)52kg級 優勝
2010年 グランドスラム東京 52kg級 優勝
2012年 ワールドマスターズ(アルマトイ)52kg級 優勝
皆さん、こんにちは。西田優香です。簡単に生立ち等自己紹介をさせていただきます。父は元世界選手権代表で山梨学院大学柔道部総監督、母、弟、共に柔道家の柔道一家で育ちました。物心がついたころには柔道衣に袖を通し、中学校1年生ではじめて全国大会で優勝すると、2010年の東京世界選手権で優勝することができました。一見すると順風満帆な競技人生に見えますが、そうとは言いきれません。幼い頃の夢は世界チャンピオンとオリンピックチャンピオンになることでした。しかし最大の夢であったオリンピックという夢を叶えることは出来ませんでした。当時は人生を賭けた戦いに敗れ、大きな喪失感に見舞われ、今でもオリンピックという言葉に胸の奥がざわざわとする感覚に襲われます。しかし、その大きな挫折は今の私にとって大きな武器となっています。その事に気づくことで私自身の価値観も大きく変化していきました。
現在私は、日本大学で教員をしながら女子柔道部のコーチをしています。今私が向き合っている学生一人ひとりがその答えを教えてくれました。彼女達の大半は多くの負けを経験します。代表として選ばれ、世界チャンピオンとなった経験を活かして勝ち方を伝え、そしてオリンピック代表落選という選ばれなかった側の経験を活かし、勝てなかった選手の気持ちに寄り添うことができます。彼女達の日々成長する姿を見ることで、自身の「武器」と言えるものに気づくことができたのです。
そして代表落選の他にも、自分自身の価値観や考え方に大きな変化をもたらしてくれた出来事がありました。それは出産です。妊娠期間を経て、出産をし、育児と仕事の両立をスタートさせました。しかし、選手時代に培われた「自分でなんとかする」や「徹底的に追求する」という考え方は自分の首を絞め、自分一人でできることの小ささに気づかされました。そして役割分担と、仲間と協力することの大切さを知りました。多くのお父さん、お母さん達が仕事と子育ての両立の難しさに直面するかと思います。私はありがたい事に家庭では夫に、職場では日本大学女子柔道部監督の北田典子先生に助けていただきながら、日々を乗り越えています。そしてママさん指導者として最大の難関は保育園がお休みの日に行われる大会です。しかし柔道界ではいち早く、主要大会にスマイルルームと言われる託児室が設置されました。スマイルルームのおかげで私も娘も安心して大会の日を迎えることができています。このコラム企画の中で、山口香先生が当時の女子選手、女子指導者としての様々な苦労を書かれていました。そんな偉大な先輩方が女性の活躍の場を増やそうと努力してくださった結果、少しずつではありますが女性の指導者が増え、働きやすい環境にもなってきていると感じています。これからの私たち世代の役割は先輩方が作ってくださった道を更に広げ、次の世代にバトンを渡すことだと思っています。
私は娘を産み、母になり、親子で柔道ができる日が待ち遠しくて仕方ありません。苦しい練習や怪我の痛みに耐え、勝利を追及する競技柔道の楽しさもやりがいももちろん知っています。ですが、柔道はもっと奥深く、そして懐の広い競技です。親子で柔道を楽しんだり、生涯スポーツとしてもっと柔道を気軽に楽しんでもらえるような取り組みにも携わっていきたいと思っています。
最後に、現在新型コロナウイルスの影響で、多くの人が不安な時間を過ごしているかと思います。辛く苦しい時間かと思いますが、今できる最善を積み上げて、あの経験が強みになったと言える日が一日でも早く訪れるよう願っています。
次回は、実業団時代のチームメートであった
緒方亜香里さんが登場します。