――サウジアラビアの競技人口(女子)というのは、いまどのくらいですか?
人が入っては出て、入っては出てという感じで、定着しているわけではないのですが、だいたい500人くらいではないかという話です。
サウジは国際大会に出る女性とかも本当に少ないのですが、私がサウジにいるときに一度だけIJFの大会(オーストラリアオープン)にサウジの選手が出たことがありました。その選手はすごい頑張り屋さんなんですけど、1回戦で負けてしまったんですね。組んですぐに体落で投げられて。サウジの女性にとっては、もちろん結果を出すことも大事ですけど、それ以前に、表舞台に出るということが一つの戦いというか、とても勇気がいることなんです。
試合が終わってホテルに帰ったあと、彼女の試合を思い返しながら「すごく緊張してたし疲れただろうけれど、私どうしても教えたいことがあるんだよな~」「ちょっと話せないかな、でも疲れているから休ませた方がいいか」と思っている時に、その選手から電話がかかってきたんです。「先生、私練習をしたいです。何が悪かったのか、自分でもわからないし練習したいです」と。そのときに、サウジ柔道はこれから強くなれるかも。この子が引っ張っていってくれるかも、という思いがしました。
ホテルがビーチ沿いだったので、すぐに柔道衣の上だけを持ってビーチに来てもらって。そこで2時間くらい、基本的なことですが、組み方や技を掛けられたときのさばき方とかを練習したんです。それはすごく嬉しかったことですね。
でも、実は、大会から帰国したあとに、この選手はお父さんから今後の国際大会に出ることを反対されてしまったんです。その子から「先生、話があります」と言われて、涙をこらえながら、「私は強くなりたいのに、お父さんに反対されて、国際大会にもう出られないかもしれない。お父さんを納得させるために毎日練習したいけど、その練習の時間と自分の時間が合わないときがあるから、そのときは先生、私のトレーニングを見てください」と。そのときに、その子の覚悟みたいなものが見えて、「この子のお父さんに認めてもらえるために、私も一緒に頑張ろう」と。同時に、そういうのを見て、いまのサウジの時代の変化に女子柔道がついていって、自分のやりたいことがやれるようになればいいのにと強く思いましたね。