
プロフィール
山本 杏(やまもと あんず)1994年 東京都生まれ
講道館柔道女子参段
主な戦績
2010、2012、2017年 講道館杯 52㎏級、57㎏級 優勝
2012年 グランドスラム東京 57㎏級 優勝
2014年 アジア大会 57㎏級 優勝
2014年 グランドスラムパリ 57㎏級 優勝
皆さんこんにちは。国士舘大学の後輩、石塚やよいさんから紹介を頂きました山本杏です。
今回この様な機会を頂き、嬉しく思います。石塚やよいさんとは大学の先輩後輩の関係です。
彼女は小さい頃から私の事を目標にして柔道をやっていたと聞いています。年齢は2つ下の後輩になりますが、賢く、柔道だけではなく色んな面に関しても天才だなと思える人です。
そして今でも交流があり私の支えとなってくれている1人です。
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
私の話に変わりますが、2024年6月15日付けで約7年間お世話になったパーク24株式会社を
退職しました。2023年に現役を引退し、それから一般社員として会社の皆さんとお仕事をさせて
頂いていました。退職した理由は様々ですが、やはり一番は『柔道』でした。
私は4歳から柔道を始めました。引退するまでの25年間、柔道が常に生活の軸となり、柔道を通して沢山の仲間と出会い、そして生きていく上で大切な事を学んできました。まさに私の人生の軸となるものは『柔道』でした。ですが引退してからは一気に生活環境が変わり、柔道を出来るのは週末だけになってしまいました。25年間ほぼ毎日柔道に触れていたのに会社が終わってからでは練習にも間に合わないし、むしろ仕事で精神的に疲れてしまいトレーニングさえ出来ない自分が居ました。そんな自分にも腹が立ち、柔道をやっている時には感じたことのない無力感に襲われました。どんどん衰えていく自分が許せないけど頑張れない。そんな時間がしばらく続きました。半年ほど働きましたが、毎日同じ事の繰り返しで過ぎて行く時間の速さに、『このままやりたい事を我慢して死にたくない』そう思い、前から海外に興味があったのもあり自ら行動に移しました。そしてあっという間にブラジル行きの話が決まりました。部長には『すみません、ブラジル行くので会社を辞めます』と伝えてあっという間にブラジルに飛んで行きました。
引っ越しや色々な手続き、ブラジルへ行く準備など約1ヶ月は慌ただしく過ぎて本当に大丈夫なのか心配になりましたが、今の方が幸せだ!そう思えたので私の決断は間違っていなかったと思っています。ブラジルには2016年リオオリンピックチャンピオンのラファエラ・シルバ選手のオリンピックまでの練習パートナーとして行くことになりました。約3ヶ月ブラジルで彼女の家に泊まり込みで、練習とトレーニングを行いました。生活する中でブラジルの貧富の差や国民性など色々なものが見えてきました。私が衝撃を受けた事は沢山ありますが中でも一番ショックだった事は、いつも行っている練習場所のreaçãoというクラブチームに来ている子どもたちの話です。reaçãoはスラム街の子供達を更生するプログラムの一つで柔道を通して大切な事や色んな事を学び正しい道を歩める様にと作られた道場です。
ここに通う子どもたちはスラム街の子が多いのですが、その中でも『今日お父さんが殺されてしまった、家族の誰かが亡くなった』そんな事が起きたにも関わらず、その日も練習に来るそうです。道場に来たら仲間がいるから紛れるのか、安全だからなのか、柔道を頑張るしかないと心を奮い立たせているのか、どう頑張っても私には想像する事すら出来ませんでした。私は恵まれた環境で何不自由なく生活してきて柔道とも出会いたまたま成績を残す事が出来て、その中でも苦しい事もあったし嫌になる事も沢山あった方だと思っていました。でもその話を聞いた時にこの子達に比べたら私が経験して来た事なんて比べものにならないと思いました。そして同時に自分の無力感を感じました。私がこの子達に伝えられる事なんてないんじゃないかと、でも唯一あるとしたらそれは自分が磨いてきた技術だと。それを伝える事でいつかこの子達の夢を追いかける手助けになれたらとそう思い、とにかく真剣に私の磨いてきた技術を伝えました。
ブラジルでの生活は私にとって人生の転機になる凄まじい経験をする事が出来た3ヶ月間でした。
ラファエラ自身もスラム街出身ですが柔道に出会い自らの手で夢を掴み今ブラジルでは英雄です。
私も一緒に過ごす中で彼女の人間性、器の広さに驚かされる毎日でした。そしてより大好きになり心から彼女の活躍を祈っています。
ブラジルでは柔道というのは本当の意味での『夢』だなと思いました。自分の人生だけではなく家族の人生までも変える事のできる夢の詰まった柔道という競技がブラジルにはあるという事、それを肌で感じ目で見る事が出来た事、本当にあの時自ら動いてよかったと自分の行動力を褒めたいなと思います。
この経験を通して学んだ事は『人はいつかは死ぬし、人生は一度しかない』これに気づいた時にすぐに動く事が出来た事が私の人生での大きな転機となり忘れられない経験になりました。
これからも色んな国に行って色んな景色を見て色んな経験をして私の柔道人生を全うしたいと思います。
- reaçãoの道場にて
- 帰国の時にラファエラと撮った写真